「おしまい」の優しさ

緑のたぬき、赤のきつね、というテーマ(お題)で書かれた小説なのだろうが、作品の中に違和感なく溶け込んでいて、全く別の角度から読んでも面白い作品になっていると思う。

人間関係の脆弱さや希薄さを理解した上で、何かを追い求めて山に登る主人公たちは、綱渡りをするような危うさを感じさせる。ヒヤリとさせるような危なかっかしさがある。

しかし、意外なことに作者が用意したエンディングは素朴だが優しいものだった。なんの変わってないが、確かに進んでいるのである。それを緑のたぬきを啜る主人公の姿に込めるところが素晴らしく、読む者に安心感を与えている。

作者様が最後まで安心感や優しさを表現しようとしたことは、ラストの一言にも現れている。(了)ではなく、(おしまい)という言葉で締めくくるところも工夫がなされており、好感が持てた。

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