恐怖のあいうえお

だみあん

恐怖のあいうえお

「続いては落語研究会の皆さんによる【あいうえお作文】のコーナーです。

それでは落語研究会の皆さんステージにお願いします。」


東洋水産高校学園祭2日目


文化ホールで行われる様々なイベントの中盤

に、落語研究会の面々によるお客様からお題をもらって、あいうえお作文を披露するという何の変哲もないコーナーが行われようとしていた。


「それではどなたかお題を頂けますか?」


柳原部長のよく通る声がマイクを通して全体に響き渡る。何名か手を挙げる中で小さな女の子が指名された。




「赤いきつね!」




かわいくはっきりしたその声に少しだけ似合わない言葉が、会場に笑いをもたらした。


「早速笑いを持っていかれてしまった・・・。このままでは我々は廃部の危機だ!このお題で取り返そうではないか、諸君!!」


なぜか演劇口調になった部長の掛け声で 赤いきつね のお題で、あいうえお作文に取り組むことになった落語研究会の面々。


向かって左に部長の柳原。

そこから右に5人と笑点形式の並び方をしている


「では、まずはこのお題に5人で答えてみよう。最後の佐藤君には期待しているよ。

【赤いきつね】はひらがな6文字だから、最初は 赤 から始めようか。

それでは上田君、お願いします。」




「赤く染まった」

上田君の無難な滑り出し。




「いいねぇ、上田君。次につながりやすいよ。じゃ、次は犬山さん!」




「いつもの浜辺」

不機嫌そうに答える犬山さん。




「次は大石さん」




「君と僕は」

なぜか前のめりに答える大石さん。




「お、この後に期待だね。じゃ、池崎君」




「妻がいるのに」

池崎君がハキハキ答える。


周りが少しざわつく。




「かなりの変化球だね・・・。最後は佐藤君」




「ねんごろに」

佐藤君の答えとともにざわつきが収まった。


得意気な顔で柳原部長を見る佐藤君とは対照的な周りの空気。



「うむ、このままでは本当に廃部になってしまう。チーム戦ではなく個人戦で見せてくれたまえ、諸君!

お題はこのまま、6文字でも赤を使って5文字でもOKだ!」



シーンとした空気を変えようと池崎君、佐藤君のほうは見ずに進める柳原部長のマイクが響き渡る。



しばらくして手を挙げたのは犬山さん。

かわいらしい顔を不機嫌にしたまま手を挙げている。



「お、トップは犬山さんかな。それじゃ【あいうえお作文】、お題は【赤いきつね】いってみよう!」




「赤く染まった」




「お、最初は赤できたね。それじゃ、い!」




「いつものシーツ」




「少し事件性を感じるが・・・次はき!」




「君は言った」




「う~ん・・・。つ!」




「つまらないね、別れようか。」




「・・・・ね!」




「寝付けず泣く私の横でよく眠れましたね、昨夜の柳原部長」






会場の気温が下がった。






「はい!!」

大石さんの声が響き渡る。



「は、はい。大石さんお願いします。」




「あなたは」




「次はか!」




「帰り際に」




「い!」




「いっぱいやることがあるから夜は会えないし電話もできないと」




「・・・き・・・」




「昨日言ってたと思いますが」




「・・・つ・・・」




「つまりはそういうことだったのですね」




「・・・ね・・・」




「根は真面目とよく言われるそうですが、最低な浮気男だったのですね、柳原部長!」


犬山さんと大石さんの視線が柳原部長に突き刺さる。


すると、空気を読まない佐藤君が手をあげる。



「佐藤君、頼むよ!」




「赤っ恥の柳原部長」



さすが、空気を読まない佐藤君。



「い!」

自棄になった柳原部長の声が響く。




「いつも僕に言っていた」




「き!」




「君が一番大事だよ」




「つ!」




「つまりはそういうことですか」




「ね!」




「ねぇ、犬山さん、大石さん」


予想外の展開に目を丸くする犬山さんと大石さんと頭を抱える柳原部長。



すすっと手を挙げる池崎君。



「池崎君・・・」

最初の時の1割にも満たない声の柳原部長




「あなたはあの時の電話で」




「身体だけの関係にはしたくない」




「犬山さんにそう言ってましたね」




「君が大事だよ」




「つらつらとそんな甘い言葉を」




「猫なで声で話すあなたは本当にキモかったですよ、柳原部長」



部長の声が聞こえなくなり、池崎君は一人で答えだした。




(なんで電話の会話を知ってるの?)



驚愕の展開のなか、少し冷静になった犬山さんはふと思った。




「最後は僕かな」

上田君はそう言って、あいうえお作文をこたえだした。





「あまりに滑稽で」



「神にも背くその所業」




「今すぐ腹を切るべきだ」




「きっと皆がそう願ってる」




「罪深き柳原部長」






「願わくば、そんなあなたと永遠の契りを」

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