イタリア人は白もほしい
かずきー
あと一色足りないデース!
※ 読み返しや返礼★を目的に当作品をご覧になった方へ
当作品は公募のみを目的に書きましたので、当作品に★を頂いても著者の感情は全く動きません。読み返しを期待していらっしゃるお方はメイン作品の「俺は英語が嫌いだ!」をご覧下さい。
Ciao a tutti! Sono Andrea e sono un'italiano di Veneto!(伊・やあみんな! 私はヴェネト出身のイタリア人男性です!)ヴェネト州の州都ヴェネツィアにはアジア言語学部で有名な大学があって、ワタシはそこの大学院で研究員をしていマス。
ワタシがここで日本語で書いているということは私の専門と研究は日本語と日本文化デス。
正直に言いマスと私はインスタント食品を舐めていまシタ。ナゼならばイタリアと同じで素材の味をイカす日本料理を食べて育った日本人がナンでこんなスナックみたいな食べ物を食べるのか分からなかったのデス。
ワタシはイタリア料理に誇りを持っていマス。マズ過ぎて食事の時間をマナーで誤魔化すイギリス人、量が多ければ満足のドイツ人、時間をかければ料理が美味くなるとステキに勘違いしているフランス人、これらの食文化を持ったご近所さんがいたからワタシは素材の味を誰でも簡単に短時間で引き出せるイタリア料理こそ最高の料理だと疑っていませんでシタ。
そんなワタシですが2010年に初めて仙台の大学に留学して日本料理を食べた時は本当にビックリしまシタ。ただ切っただけの魚をこんなに美味しくアレンジできる料理があったのかとスシを食べた時は感動したのデス。そして感動したからこそなんでスナックみたいなインスタント食品が日本で売れるのかワカラナイ。昼ご飯を赤いカップうどんで済ませる研究室の人達を見ても食べたいと思いませんでしたカラ、私は毎日パニーノを作って食べていましたヨ。
でもそんなワタシにも転機が来まシタ。2011年の東日本大震災デス。ワタシが住んでいた仙台市内の学生寮が津波による浸水で住めなくなってしまったのデス。幸いワタシは内陸にある大学の校舎にいたので無事でしたが、それから一か月ほどの避難生活を余儀なくされまシタ。当時はまだ3月で寒く、避難場所である広い大学の講堂を十分に暖める暖房設備がありませんでシタ。南極のペンギンのように他の学生達と身を寄せ合って暖を取っていたのを覚えていマス。
そんな寒さを耐え忍ぶ避難生活でワタシを支えてくれたのが、あの食わず嫌いしていたインスタント食品でした。避難初日の夜に大学の職員が配った赤いきつねと緑のたぬきを友人が持って来てくれた時のことをまだ覚えていマス。まだ日本に来たばっかりでハヒフヘホの発音に慣れていなかったナ……。
「ほいこれ、アンドレはどっちがいい?」
「ありがとう。ええと、赤い……きつね? 緑のたぬき? きつねは英語のFoxだよね? たぬきはRacoon dogだよね? これ、まさか犬科の動物でスープを取ったラーメンじゃないよネ?」
「違うよ! 日本人は犬食わないから! 韓国と勘違いしてんじゃないの? アンドレも『カエルとカタツムリ食べんの?』って聞かれたらフランス人と一緒にするなって怒るでしょ?」
「ああ、あいすみません。じゃあこれは何味のラーメンですカ?」
「ラーメンじゃないよ。うどんとそば。アンドレも食べたことあるっしょ?」
「ああ、あい! じゃあうどんがイイです! あのアルデンテな感じが太めのパスタみたいでイイですカラ」
「分かった。もう食べる? 食べるならお湯入れてくるけど?」
そう問いかける友人にお願いして5分後、私は生まれて初めてのインスタント食品を口にしマス。正直最初は期待していませんでシタ。しかし――
「こっ、これは! シンプルな醤油味なのにラーメンみたいな油っこさはない
避難の疲れからワタシはスープまで飲み干したのを覚えていマス。翌日はみどりのたぬきを食べました。入っていたスナックを入れたままお湯を入れようとしたら。
「アンドレ! 何やってんだよ! 天ぷらは後で乗せてサクサク食べるんだ!」
そう友人に止められまシタ。騙されたと思って後乗せしてみたら――
「Oh Dio!(伊・神よ!) 乾燥させたままの
私はたぬきにも見事にやられてしまいまシタ。しかし、どんなに美味しくても毎日食べたら飽きる物デス。ある日、ふと食べ終わった自分のきつねと友人のたぬきを見て思ったことを呟きまシタ。
「白があればイタリアのトレコローリが完成しマス……イタリアに帰りたい……」
私の呟きを聞いて友人が言いまシタ。
「あるよ、白。白い力もちがある」
「本当ですカ! 白だと……うさぎですカ?」
「いや、味じゃなくてそっちかよ! 動物は分からないけど、おもちが乗ったうどんだよ」
「食べてみたいデス! ありますか?」
「いや、避難所にはないみたい。そもそもきつねとたぬき以外はレアであんまり売ってないんだよ。運よく見つけたら買う感じ」
「そうなのデスか……」
イタリア人にとって美味しそうと思っても食べられないことほど悔しいものはありません。ここでワタシは決意しまシタ。
(絶対に白い力もちを食べる! そしてイタリアに帰る!)と。
その後、留学の中断と帰国が決まり、私は帰国の準備のために東京に来まシタ。帰国便に乗るまでの一週間、都内のユースホステルで過ごす間に私は白い力もち探しのためにスーパーマーケットを周りまシタ。しかし、まだ東北では余震が続いていて、都内でも震災の恐怖があったためか、インスタント食品は品薄でシタ。数件を探して諦めかけながらも最後の望みをかけてドラッグストアに入った時のことでシタ。半ば諦めかけながらインスタント食品の列に入って棚を見たその時――
『アッタ! ヤッとみつけタ!』
私とはまた違った訛りの日本語でハモる女性の声がしまシタ。声の主を見ると、金髪で青い目の、ワタシと同じで175㎝くらいの白人の女性でシタ。彼女もワタシのことを見ていまシタ。それはそうでしょう。私の外見もカールがかかったダークブラウンの髪にヘイズルの瞳ですから日本人には見えません。そんな人が訛った日本語でインスタント食品売り場で「みつけタ!」なんて大声を出しているのデスから。
「あ、こんにちハ」
「ハイ、こんにちハ」
彼女はハイのH音を奇麗に発音したからフランス人やイタリア人じゃないとすぐに分かりました。
「もしかしてインスタント食品を探しているのデスか?」
「ハイ、そうデス。アナタも?」
「あい、私は白い力もちを探しています。コレです」
「フフッ、そうなんですね。私はコレです。黄色い鴨だしカレーうどんデス。まさかドラッグストアで見つかるなんて!」
嬉しそうに商品を手に取る彼女は大人なのに子供のようなあどけない笑顔でとても奇麗でシタ。私も白い力もちを手に取りながら笑顔を返していると。
「ところで、アナタはフランス人かイタリア人デスか?」
「ああ、分かりマスか? そうです。ヴェネツィアから来まシタ。アナタは?」
「ワタシはドイツのケェルンから来まシタ。tedesca(伊・ドイツ人女性)です」
「オー、イタリア語も知っていますカ?」
「いいえ、家族とヴァカンスに行っただけですよ。夏のイタリアのビーチはドイツ人で一杯でしょ?」
「あーあい、そうですね。ハハっ。それでどうしてそのインスタント食品を探していたんデスか?」
「ええと、この前の地震で非難した時にインスタント食品を食べていたんです。私が避難した学校に赤いきつねと緑のたぬきと黒い豚カレーがあったんデスけど、ドイツに帰りたいと思った時に気付いたんです。黄色もあればドイツの色が揃うって」
「Mamma mia!(伊・なんてこった)ワタシもデスよ! イタリアのトレコローリが作りたくて白い力もちを探していました!」
「Ach Das ist eine Ueberraschung!(独・ああ! そんなびっくりだわ!)」
二人の白人が訛った日本語で会話をするヘンな空気を周りの日本人客が珍しそうに見ていた気がしますが、全然気になりませんでシタ。だって自分と同じ理由でインスタント食品を探している人がいるなんて思いませんでしたカラ。
それからも驚きは続きまシタ。泊っているユースホステルも同じ、帰国のために予約した飛行機も経由地のモスクワまで同じ、そしてなんとワタシ達は名前も同じアンドレアだったのデス! ドイツではアンドレアは女性の名前なのデス! ワタシ達は意気投合してお互いのヴァカンスの時には自宅に招いて交友を深めまシタ。そして恋人になり、結婚しまシタ。プロポーズした時は私がイカ墨とアッラビアータとカボチャのクリームのドイツ国旗三色のパスタソースを作ってディナーをご馳走しましたヨ。ハネムーンはもちろん日本デス。
あ、妻は今度私の誕生日にイタリアのトレコローリでジャガイモのスープを作ると言っていますが、それは遠慮しておきマス。
オシマイ
イタリア人は白もほしい かずきー @masaki0087
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