言語自動翻訳スキルがポンコツで『お体に障りますよ』と言ったら痴漢と間違われて俺ピンチ

昆布 海胆

言語自動翻訳スキルがポンコツで『お体に障りますよ』と言ったら痴漢と間違われて俺ピンチ

「それではこれより異世界転移者『ウエディ氏』の裁判を始める!」


王座の前に後ろ手に縛られた一人の男が居た。

彼の名は『上 智一』日本から転移してきた転移者である。


「お願いだ・・・俺は何もしていないんだ・・・」

「黙れ小僧!貴様は我が娘であるアリシアに手を出そうとした疑惑がもたれているのだ!王族に手を出すという事がどれ程の重罪か知らぬとは言わせぬぞ!」


彼が何故ウエディと呼ばれているのか・・・

それは転移してきた時に出会った王女アリシア姫との出会いにまで遡る・・・





「ここは一体・・・」

「ようこそ異世界の者よ、私はこの国の王女アリシア。稀に貴方の様な者がこの世界に飛ばされてくるのです。それであなたの名は何というのですか?」

「俺ですか?俺は上 智一・・・皆からは上と呼ばれています」

「?えっと・・・なんとお呼びすれば良いでしょうか?」

「『上』でいいです」

「ウエディ様ですね承知しました。皆さん、此度の異世界転移者は『ウエディ様』です記録の方を!それでは私はこれで・・・」

「いや・・・あの・・・『うえでいい』であってウエディでは・・・」





こうして転移したその瞬間から彼の悲劇は始まった・・・

この王城内で半月ほど生活をして出会った人々から、何故か嫌われまくる現象に困らされた上は最大の窮地に立たされていた。

この世界に転移したその瞬間から言語自動翻訳スキルのお陰で会話が出来たのは幸運だったのだが、彼は何故こうなっているのか理解していなかった。

狼狽えている上の前に大臣が歩み出て述べる。


「それでは最初の証言者前へ」


大臣の言葉に女兵士が前に出る、この国の部隊長を勤める『リーザ』である。


「この男は突然私に告白をしてきた!互いを知りもせずにそんな行動に出るのは良識ある人間のする事ではない!」

「違っ!俺は別に・・・」

「嘘をつくな!突然私の訓練を見ていたと思ったら『愛しています』などと述べて私を惑わしたでは無いか!」


上は当時の事をよく覚えている、突然顔を赤らめたと思ったら会話が成り立たなくなり逆切れをされて突然嫌われたのだ。

そう、この時剣道を習っていた上はリーザの剣の突き技を見て・・・


『なんて綺麗な突きなんだ!』


そう口にした。

だが上の言語自動翻訳スキルはこれをこの世界の言葉に変換した。

上の居た日本での言葉を自動的に翻訳した結果・・・


『綺麗な突きなんだ』→『綺麗な月なんだ』→『月が綺麗ですね』→『I LOVE YOU』→『愛しています』


かつて夏目漱石がそう訳したとされる有名な言葉であった。

自動翻訳スキルはこれを勝手に使用し変換していたのだ。


「まぁ!私の体に触れようとしただけはありますわね!」


アリシア姫がそう叫び上を糾弾する。

そう、アリシア姫に昨夜上が述べた言葉すらも言語自動翻訳スキルは誤翻訳を行っていたのだ。

上は昨夜の事を思い出しながら困惑の表情を浮かべる。

夜風が当たるバルコニーで上はそこに居たアリシア姫に確かに口にしていたのだ。


「今夜は冷えます。お体に障りますよ」


言語自動翻訳スキルはこれを翻訳してアリシア姫に伝えていた。

その結果・・・


『今夜は冷えます。お体に障りますよ』→『今夜は冷える、お身体に触りますよ』→『今夜は冷えるから触って温めてあげるよ』→『今夜は俺が触って温めてあげよう』


漢字を誤変換しただけでなく意味が伝わる様に作り変えられていたのである。

結果、上は王族への不敬罪で現在の状況に陥っているのである。


「次の証言者前へ・・・」


大臣が上を無視して続けた。

次に出てきたのは彼の身の回りの世話をしていたメイドであった。


「この男はとんでもない事を私に言いました!私が部屋を訪れた時に変な音がしていたので何をしていたのか聞いたのです。そしたら・・・」

「「「そしたら・・・?」」」


周囲の一同が生唾を飲み、彼女の言葉を待つ。

注目されているのに恥ずかしくなりながらメイドは述べた・・・


「彼は『自慰』をしていた・・・と私に堂々と述べました」

「はぁあああああああああああああああ?!?!?!」


上の声が大きく響いた。

全くの誤解である、上はその時の事も思い出した。

突然自分に対するメイドの態度が急変したあの時だから・・・

彼は・・・


「ストレッチしてました」


と言ったのである。

だがこれが言語自動翻訳スキルにより翻訳され・・・


『ストレッチしてました』→『一人エッチしてました』→『自慰をしてました』


聞き間違えから自動的に変換されメイドに伝わっていたのである。

周囲の目が更に白く上に突き刺さる。

全く現状が理解出来ない上は滝の様な冷や汗を流しながらガタガタと震える・・・


「次の者前へ!」


再び大臣が述べると今度は少女が出てきた。

お城の庭師の娘で、一時期上に懐いていた少女である。

彼女も突然上の元に顔を出さなくなった一人で在り、上はその日の事を忘れもしない・・・


「お兄ちゃんの居た国では恐ろしいお祭りがあるそうで、お兄ちゃんはそれが大好きだったって言ってました」

「それはどういう祭りで?」

「ハロウィンだろ!なんだよ子供が喜ぶお祭りじゃないか!」


上が叫ぶが誰も視線を上には向けず少女の方へ向ける。

そして、彼女は話し始めた。


「そのお祭りでは他所の家を子供が仮装して訪れて言うそうです・・・」


周囲の人々が生唾を再び飲む。

涙目で話す少女がどれほど恐ろしい話を聞かされたのか・・・


「仮装した人は言うそうです『金を出すか死か選べ』と・・・」

「なっ・・・?!」


絶句、まさにその言葉の通り、周囲の人は言葉を詰まらせた。

子供が喜ぶお祭りが他所の家へ押しかけて強盗としか思えない行動を取る、それが子供が喜ぶお祭りだと上は言っているのだ。

勿論これも言語自動翻訳スキルの仕業である。

事もあろうに言語自動翻訳スキルは『トリックオアトリート』を何故か一度ロシア語に変換し日本語へ直訳していたのだ。

つまり・・・


『トリックオアトリート』→『Trick or Treat』→『Кошелек или жизнь』→『財布か人生』→『金を出すか死か選べ』


上自身も何故そうなったのか全く分からないまま、泣く少女は保護されて出て行く・・・

何かを言おうとする上は少女をこれ以上傷つけない為に口を塞がれていた。


「次の者・・・」


もうこれ以上聞きたくないと言わんばかりの態度で大臣は述べ、次の者が前に出る。

それは風呂の準備を主に行うメイドであった。

彼女もまた述べた。


「偶然着替えている私が居る部屋のドアを彼は開いたのです。そしてドアを閉めて彼はドア越しに言いました『もう我慢できない』と・・・」


その言葉を聞いて直ぐに逃げ出したと言う彼女もまた、保護されるように上をキッと睨むだけ睨んで出て行く・・・

これも酷い話であった。

ラッキースケベで着替えを覗いてしまった上はメイドに彼は述べたのだ。


「本当にゴメン、申し訳ない」


言語自動翻訳スキルはこれをこう変換した。


『本当にゴメン、申し訳ない』→『申し訳が立たない』→『Sorry I can not stand』→『申し訳ないが私はがまんができない』→『もう我慢できない』


「次の者・・・」

「彼は・・・」

『置かして』→『犯して』


「次の者・・・」

「彼は・・・」

『たまたま』→『タマタマ』


「次の者・・・」

「彼は・・・」

『成功した?』→『性交した?』


「次・・・」

『今日居ない』→『胸囲ない』


『飲み放題』→『の見放題』


『これで解決』→『これデカい尻』





最早誰一人上の味方をしようとする者は居なくなっており、俯き消沈する上の口が解放された。

ガックリと頭を垂れたまま上は何も言わなくなっていた。

何かを言えば誤解が生まれ更に酷い事になるとしか思えなかったのだ。

そんな上の肩に手が置かれた。


チラリと視線を向けるとそこには一人の日本人、祥子が立っていた。

彼女は上とは違うタイミングでこの世界に転移してきた同士である。

そんな祥子に上はつぶやいた・・・


「なぁ・・・俺は助かるのか?お前は俺の事どう思ってるんだ?」


そんな上の呟きに周囲の視線が祥子に集まる、彼女はこの国でも類稀なる頭脳の持ち主として賢者と呼ばれていた。

そんな彼女が自分の事を弁護してくれれば自分は助かるかもしれない、そんな俺に彼女は告げた。


「癒し系だね」


そう彼女は優しく俺に言ってくれた。

彼女にとって俺は癒しとなっていたのか、その言葉に心がフッと軽くなった。

そして、俺の意識はそこで途切れる。

それが俺の最後であった。


言語自動翻訳スキルは最後の最後に大仕事をしてくれたのだ。

即ち・・・


『癒し系だね』→『いや、死刑だね』


それが彼にとって救いとなったのかは誰にもわかりはしなかった・・・



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