最終話 駐在くん、女子高生の誘惑に負ける
「————それで、一緒にお風呂に入ったと」
「はい」
「で、ついつい盛り上がってしまって、こんなことに?」
「はい」
「……いくら同意の上とはいえ……あんた、本当に————どうしようもないわね」
「はい」
「とりあえず、一発殴らせなさい」
「は、はい」
親子とは、意外と似るものである。
事件から三ヶ月後、季節はすっかり春を通り越して夏に。
実家に帰って来たハジメはスーツをバシッと着て、玄関ですでに土下座をするというスタイルを貫いていた。
実はこれ、十年前にも起きた出来事と酷似している。
「顔をあげなさい。殴りやすいように」
「は、はい……」
美里に言われた通り、すぐに顔を上げてぎゅっと目を瞑る。
ハジメの頬に、ものすごい衝撃が一発入る。
————バチーーーンッ
「女子高生には手を出すなって、あれだけ言ったのに……妊娠させるなんて!!!」
菜乃花の誘惑に負けてしまい、あの日、一度一線を超えてしまったことを隠していたのだが……
二ヶ月経って菜乃花の妊娠が発覚。
もう流石に誤魔化せない、この完全犯罪は不可能であると、今日は覚悟を決めて安定期に入った菜乃花を連れて実家まで来たのである。
菜乃花は車の中で待機中だ。
ちなみに、こうして土下座をした後、誰かに殴られたのは二回目である。
一回目の時は、普段は厳しいけれど落ち着いていて気品溢れる菜乃花の祖母が錯乱して、殴られた後に包丁片手に殺されかけた。
それに比べたらまだビンタ一発で済んでよかった方だ。
「あんたの父さんも……十年前に同じように土下座してたの、覚えてるわよね? 親子で同じことして——……」
「いや、俺は父さんと違って、不倫じゃないんで……」
「そういう問題じゃない!! あーもう!! 腹が立って仕方がないわ!!」
「ごめんなさい……」
「とにかく、菜乃花ちゃん連れて来なさい。車に乗ってるんでしょ? まさかこんなことになるなんて……はぁ……」
「う、うん……」
もう妊娠までしてしまっては、反対のしようもない。
結局、美里は菜乃花を嫁として受け入れるしかないし、ハジメも責任をきちんと取るしかなかった。
(俺だって、まさかあのたった一回でこんなことになるなんて思わなかったよ……)
ハジメは美里に言われた通り、菜乃花を呼びに車まで戻る。
「大丈夫だった?」
「あぁ、平気だ。殴られなれてるから……」
「えっ!? 殴られたの!? あ、本当だ、赤くなってる……」
殴られて赤くなったハジメの左頬を心配そうに見て、菜乃花は優しくさする。
「ごめんね、ハジメくん。ハジメくんの反応が可愛すぎて……私がついつい誘惑しちゃったせいで、痛いよね?」
「平気だよ。それより、行こう。母さんが待ってる」
「うん……」
ハジメは助手席から菜乃花を降ろすと、転ばないように菜乃花の腰に手を添えながら実家の敷居を跨いだ。
改めて、二人並んで挨拶をする。
リビングのソファーに菜乃花を先に座らせてから、ハジメはぎゅっと菜乃花の手を握り、まっすぐに美里を見据える。
「それで、これからのことなんだけど……俺————」
* * *
翌年、女人村に一人の男児が産まれる。
それも、病院ではなく村長の自宅で。
長年、男児は村の外でしか産まれないというのは、全く根拠のないものであることがこれで証明され、聖女が生まれると行われて来たあの謎の儀式は途絶えることになった。
産まれて来た男児はそれはそれは可愛くて、初めてのひ孫に村長は大喜び。
まだ産まれたばかりだというのに、すでにランドセルまで買ってしまうほどだ。
早すぎると村民から総ツッコミが入ったが、それはそれで村長が村民から愛されている証拠だった。
「ちくしょう……なんでこんな時に!!」
大事な出産の瞬間だというのに、電話が来てハジメは現場に出動しなければならなかった。
山に逃走犯が潜伏しているという情報が入ったからだ。
しかし、誤報だった。
ハジメが村長の家に向かっている間に、すでに出産は終わってしまったようで、雪道の中を必死に駆け抜ける駐在警官に村の人々が声をかける。
「駐在くんおめでとう!!」
「元気な男の子だってよ!!」
「そんなに急いで、転ぶなよー!!」
そして気づいたら、出産祝いだと次々と野菜や果物、酒などを持たされて両手がいっぱいになっていた。
「もう、ハジメくん! 遅い!!」
「ご、ごめん……!!」
産まれたばかりの我が子を腕に抱き、出産直後で疲弊しながらも菜乃花はハジメを見て笑う。
表情ですぐにわかる。
ハジメがどんなに出産に立ち会えなかったと落ち込んでいるか……
「もう、そんなに落ち込まないの。パパになったんだから、しっかりして!」
「うん……でも、産まれる瞬間見たかった」
「大丈夫よ。また産めばいいんだから……」
「え?」
「ハジメくんの子供なら、何人だって喜んで産んであげるよ?」
(今産んだばかりなのに、何言ってるんだ——)
「あ、でも今度はちゃんと計画的にね。私、一応まだ女子高生だから」
そう言って、菜乃花はいたずらに笑った。
(まったく……この女子高生は————本当に……いつだって俺を誘惑してくる……)
駐在くんは、この女子高生の誘惑にこれからも負け続ける。
彼女が女子高生でなくなっても、ずっと————
— 終 —
——————
最後までお読みいただき、ありがとうございました!!
これからもいろんなジャンルで、色んなお話を書いていきますのでよろしくお願いします!!
他の完結済み作品も、もちろん次回作も、よければ読んでみてください!
また、応援のハートや星、感想コメント、レビューなどなど、何かしら読んだよー!楽しかったよーと、反応を残していただければ、喜んでまたせっせと完結まで突っ走りますので……
よろしくお願いします!( ˆ̑‵̮ˆ̑ )
駐在くんは女子高生の誘惑に負けそうです 星来 香文子 @eru_melon
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