インスタントでも思い出。

思えばヘンテコな世の中になったものである。一分一秒を争う競争社会は「インスタント」という言葉を生み出し、より安価でより手軽に楽しめる数々の物が梱包されてベルトコンベアに乗せられる。

奇妙なのは、それらが確かな温もりを持っている事だ。より安価、より手軽、より美味く……、インスタント食品は欲張りにも「より〜」を求めて収まるところがない。これほど、商業至上主義を唱える存在は他にはないのではなかろうか。それでも、確かに温かいのである。温かさはやがて人の記憶を刺激して、過去を思い起こさせるきっかけともなりえるのだから不思議だ。こんなにも欲張りなのに。

あるいは人の記憶を呼び覚ます物など何でもいいのかもしれない。人間本意な考え方だ。人は自由に物事を選択して、それに記憶の一部を仮託する。そういった考えもできるだろう。でも、温もりのある物に優しい記憶を委ねるときの安心は、ちょっと理屈では説明付られない。それが即席のものであろうとなかろうと、温もりは優しさを連想させるのだから不思議だ。そのようなことを考えながら朝食としては偏った即席ラーメンを啜った。

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