第30話 ガキンチョ、とりあえず保留する

結局ガキンチョは働くのを保留にした。


「まあここまで来るのも手間だしね」

夜盗が増えているので危ないのだ。


「ごめんね」

珍しくガキンチョは殊勝な事を言った。


「お?どした?」

珍しい言葉に私は理由を尋ねた。


「おれをやとってくれるとこなんてあそこしかなかったのに」

ガキンチョはいじましい事をいった。


「おれはほんとなにやらしてもだめだったから」

ガキンチョはかなりブルーになっていた。


「気にするない!」

私はちょっとだけ強くガキンチョの背中をたたいた。


「それと俺、になってるぞ」

私は笑いながらそうたしなめた。


「あ、わたしだわたし」

ガキンチョもちょっと苦笑して言い直した。


「それにさ」

ガキンチョはちょっと恥ずかしそうに言葉を続けた。


「あそこってさ」

ん?なんか問題あるの?


「……その、すきんしっぷがはげしいおきゃくがおおくてさ……」

うっはあマジか。


「なるほどそっち方面にはモテモテだったのか」

私は強い納得を得た。


「うれしくない!」

ガキンチョは憤慨した。


「まあ過ぎたことだ」

私は正しい事を言った。


「今日は遅いからどこかに泊まっていこう」

賃金も結構よかったしね。


「やったぜ!」

ガキンチョは素直に破顔した。


「その代わり」

私は少し人の悪い笑みを浮かべた。


「その頃のあんな話やこんな話を聞きたい」

私はにんまりと笑顔でそう言った。


「ええー!」

ガキンチョは嫌そうに顔をしかめた。


「とらうまなのに!」

ガキンチョはそう言ったがもはや興味が止まらぬ。


「そういうのは吐き出したほうが楽になる」

私は適当な事を言った。


「ええー!」

ガキンチョは嫌そうに顔をしかめた。

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