第29話 ガキンチョ、いきなり働く

「おーい師匠、いるかい?」

お客さんがおいでになった。


「はいはいいらっしゃい」

師匠はご近所さんに挨拶するように言った。


「アレスリンとアンモニアはあるかい?」

お客さんがそう言うと師匠はガキンチョに目を向けた。


「ほれ、アレスリンとアンモニアだとさ」

もう働く事になったらしい。


「え?えーと?」

ガキンチョは師匠とお客さんと私を代わりばんこに見あげて戸惑っている。


「ほれほれ」

師匠はからかうようにそう急かす。


「ほれほれ」

私もつられてそう急かしてみた。


「ほーれほれ」

お客さんも何かの遊びと思ったのかそう急かした。


ガキンチョはぱたぱたしながら店内を探し回り、5分ほどもかけてようやくご指定の商品をもってきた。


「たしかこれのはず!」

ガキンチョは断定口調で言ったが自信はなさそうだ。


「惜しい!こりゃアンモニアじゃなくて硫黄だな」

お客さんが笑いながらダメ出しした。


「商品から何が必要だかを察しないとねえ」

師匠は呆れたような笑顔でそう言った。


「えー、そんなのわかんないよ」

ガキンチョは不満げだ。


「わかるさ」

師匠はあっさりと言った。


「この居で立ちでアレスリンとアンモニアが欲しいなら」

師匠はお客さんのほうを向いて言った。


「野営用の虫よけと虫刺され薬だろう?」

師匠の推測にお客さんはおお、と声を上げた。


「さすが師匠だなあ」

うん私もすごいと思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る