きつねさんがわらった 〜赤いきつねうどん ふっくらお揚げ2枚入り〜
ろくろく んよちい
おかいもの
それは夕方の4時過ぎごろの出来事。
コンビニのバイトでレジのお客さんを待っていたときのことだった。
保育園ぐらいの子2人と小学生の子を連れたお母さんがやってきた。
いちばん小さな女の子は店に入るなり小走りに奥の棚の方へと駆けていった。
すてんっ。
と、黄色い看板の近くでその女の子は転んでしまったが、すぐに立ち上がりパッチワークの膝を自分でパンパンとはたいてからまた何事もなかったかのようにまたてくてくと小走りした。
「おかあさん!おかあさん!これ。」
女の子が指さす先には赤色のカップ麺があった。
「……い、き、つ、ねっ!……の、た、ぬ、き。」
一所懸命に覚えたてのひらがなを読み上げている。
そう――赤いきつね――で有名なあのうどん。
「うーん。どうしようかしら。」
お母さんはちらっと下の方のプレートを見た。
コンビニだとカップ麺は少々割高で売られているからだろうか。
「私もこれ、食べたい。」
さっきの子より少し背の高い女の子がお菓子コーナーからてくてくと歩いてきて同じ赤いカップを指さした。
「ねぇ、うどんならこっちにもあるよ。」
と上のお姉ちゃんだと思われる子が言う。さすがはお姉ちゃんというべきかお母さんの意図を察したらしい。コンビニブランドのお手頃なうどんをさり気なく勧めている。
「いやだー。」
いちばん下の子が駄々をこね始めた。
「知らないの?コンビニならこれが2枚入ってるんだよ。」
真ん中の子も必死に食らいつく。
「これってなぁに?」
上の子が聞いてみた。
「えーっと、えっと……。」
両手を頭の上に挙げてネコ……いやキツネのようなポーズをした。
「お、お……おきつねさん!」
(ん?きつね……もしかして「お稲荷さん」のことかな?)
どうやらお姉ちゃんは妹ちゃんが名前を知らないということを知っている様子だった。それを理由にコンビニブランドの方をお母さんに買わせようという作戦のようだ。
「ぶっぶー。ざんねんでした。ということでこっちね。」
コンビニブランドの方を棚から取ろうとしたとき――。
「いやぁだぁー!!」
真ん中の子の声が店中に響く。
お母さんは近くのお客さんにすみませんと小さく頭を下げていた。
そのあと、すっとしゃがんでお母さんはお姉ちゃんに尋ねた。
「ねぇ、お姉ちゃんはホントはどれが食べたいのかな?」
しばらくしてお姉ちゃんが、
「わたしも……が食べたいけど、だって……。」
ぼそぼそと答えた。
そして、もじもじと赤いカップを指さした。
その様子をみてお母さんは優しく笑った。
「もぉ。みんなして。しょうがないな。じゃあ今日の夕ご飯はこれにしよっか。」
そう言ってカゴの中にひとつ赤いカップを入れた。
『え!いいの?やったー!!』
3人は大喜び。
しかもいちばん喜んでいたのは上のお姉ちゃんだったのだ。
「あ、でもお金……。」
はっ、と気が付き心配そうな顔をした。
「それぐらい気にしなくても大丈夫よ。それにお母さんも今日はこれ食べたいし。」
お母さんはにこにこしながら答えた。
『やったー!やったー!』
姉妹もにこにこしながら違う棚の方へ歩いていった。
しばらくしてから、
「これ会計お願いします。」
お母さんがカゴを持ってきた。
カゴの中には牛乳と小さなチョコレートが3つ、そしてさっきの「赤いきつね」が1つ入っていた。
会計を済ませお姉ちゃんと下の子が扉を押して外に出ようとしたとき、「あー!!」と真ん中の子が大きな声を上げた。お母さんもその声を聞いて何かを思い出して「しまった!」という顔をする。
一瞬なにかレジで渡し忘れたものがあったのではないかとどきりとしたが、
「パパが、緑のたぬき買ってきて言ってたからコンビニに来たのに!」
とお姉ちゃんが言った。
「まぁいっか。」
といちばん下の女の子。
「よくないわよ〜。だって明日のパパのお昼ごはんなのに。」
お母さんがまたレジに並んだのはそれからすぐのことだった。
きつねさんがわらった 〜赤いきつねうどん ふっくらお揚げ2枚入り〜 ろくろく んよちい @nono1121
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます