「スチームパンクの街・エルキルス」という魅力的な舞台で活躍する人々の生き様を、ときに明るく、ときに深刻に描き出すミステリー作品でした。
本作の魅力を3つ挙げると、①ロマンチックかつ超現実を思わせる街・エルキルス ②個性豊かな人々の人間模様 ③本格的なミステリー構造 です。
①街の風景が目に浮かぶようで、ついつい「こんな街があったら素敵! 旅行したい!」と思ってしまいました。また、読み進めるにつれ、この街が非常にシュールかつリアリティあふれる問題を抱えていることが分かり、深みを増します。
②登場人物がもれなく個性豊かで、横文字名前の苦手な私でも、全く混同せずに読めました。姪っ子愛の凄まじい牧師さん、凸凹警官コンビなどなど……彼らのコメディチックなやり取りがほっこり面白いです。
悪が蔓延る世界を描いている一方で、登場人物たちは皆心根の良い人たちなので、安心感があります。善良な人々が、反目したり、寄り添ったりしながら協力していく様子に、読者の心も温まります。ネタバレにならないように書きますが、犯人の心境にも共感できるところがありました。
③本作は、街で起こった誘拐事件を追う物語です。驚きの展開の連続の末に、ラストでは「これが伏線だったの?!」と驚かされること間違いなしです。
ひとたび開けば、あなたもきっと、エルキルスの街の魅力の虜になることでしょう。
仮想24世紀、とある理由から文明レベルを19世紀まで後退せざるを得なかった近未来の物語。
喫茶店ポピーで働く少年ノアは、或る日、目の前で引ったくりに遭遇。「誰か捕まえて」という少女の叫びにも、ノアは咄嗟に動くことが出来なかった。
そんな頃、蒸気に包まれるエルキルスでは、連続連れ去り事件が発生する。個性的なキャラクターたちは事件解決の為、過去に、或いは自分に向き合いながら成長してゆく。
私が感じる本作最大の魅力は、浪漫溢れる世界を根底に置きながら、それぞれのキャラクターにスポットライトを当てた群像劇であるという点です。
犯人の独白から始まるこの物語、貴方は何を感じるでしょう?
蒸気に包まれるこの物語を一緒に応援しませんか?
オススメです★
群像劇らしく登場人物の誰もにスポットが当たりつつ、お話が進みますが、群像劇って、これ誰だっけ? と、なりがち。
けれど、こちらの『蒸気の中のエルキルス』という物語は、読みに来れる日にちが空いてしまっても、そうはならずに楽しく読めた作品でした!
主要人物は7人。どのキャラクターも魅力的で、キャラクターの書き分けがしっかりされているという印象でした。
それに、何かを説明するときに出てくる例え方が作者さんの持ち味かなと思いました。
話が進むごとに人間関係と物語の肝が進展していき、話がダレる事無く、テンポ良くストーリーが進んでいくのも読みやすかったです。
今回、第一部終わりまで拝読しましたが、綺麗に終わっているので切りのいいところまで一気読みしたい方にもオススメの作品です!
スチームパンク×サスペンスミステリーということで、非常に浪漫と緊迫感に溢れた作品でした。
しかし設定や内容が複雑で重苦しくて読みにくい、といった部分は一切なく、個性的なキャラクター達の掛け合いやテンポ良く進む展開のおかげで、最後まで目が離せないまま一気に読了できました。
興味を惹く舞台設定、犯人の自供文から始まるプロローグ、群像劇的に登場する魅力的なキャラクター達、ひとつの事件が解決したかと思えば更なる悪意や真実に近付いていき――などなど、起承転結がハッキリしていて、退屈するパートが皆無だったのは素晴らしかったです。
作品として奇抜さや突飛な犯罪トリックといったモノはないものの、文章でも展開でもキャラ作りにおいても、あらゆる部分で隙がなく堅実な作風だと感じました。犯人の動機も設定とリンクしていて納得感があり、目立った短所がないのが一番の長所だと思える、優等生的な作品でした。
ただ犯人の動機以外で、『スチームパンク』要素が物語と深く絡み合ったり混ざりきっていない部分だけが、惜しかったかなと思います。
蒸気時計や蒸気船、ラジオやタイプライターが使用されている世界ですが、普通の時計台や船が存在する、現実の21世紀や19世紀の設定にしても、ストーリー自体は別に破綻しないと感じてしまいました。
『犯人の求めるモノが存在しない世界』という必要性はあるのですが、仮に『アレ』が手に入っても、遅かれ早かれ犯人が求めていない状態になるので、動機の『根幹』を考えると、スチームパンク世界じゃなくても犯罪を実行に移すことは可能だと思います。
作中世界の雰囲気を生み出すだけの設定や効果で終わらせず、『この世界でなければ描けない、スチームパンクじゃないと成立しない物語』という部分をもっと強調できていれば、更に評価は高まったかなと感じました。
とはいえ、馬車が走り蒸気に包まれる世界の雰囲気自体は好きですし、ミステリーものとしても納得できるオチだったので、読んで満足感のある良作だったのは確かです。
この世界観やキャラクター達で、新たなる事件や物語を生み出すこともできそうなくらい、個性と魅力に溢れていました。
序盤で登場人物名とその特徴、性格が紐づけられるから、中盤以降「このキャラ誰だっけ??」って分からなくなることが全くなくて、とても読みやすかったです。
また、登場人物の特徴を生かした会話が本当に魅力的で、特に一人の女性を巡って男二人で皮肉を言い合うシーンはくすっと笑ってしまいました。
物語についても、意外なところが伏線になっていて、驚きました。中盤、伏線が回収されて、犯人が特定されてからさらに面白くなり、そこから物語がどうなるのか楽しみで仕方なかったです。ページをめくる手が止まりませんでした。
今回は女性が誘拐されるというかなり重大な事件ですが、もう少し軽い事件を取り上げた物語にしてみても面白いのかなと思いました。日常のちょっとした出来事をめぐって、個性的な登場人物たちが面白い会話を繰り広げる物語も個人的に見てみたいです
全体的に完成度が高く、本当に素晴らしい作品です。次回も個性的なキャラクターが活躍する物語を楽しみにしております!