第2話

 病院について手荷物やらを受け取り紗奈を引き取ったあと夜8時ごろに実家に着いた。

 玄関には親父が俺らを呆然と立ち尽くしている。

「一つ布団増やせっていうのは、お前の彼女じゃなかったのか」

「な訳ないだろ」

「紗奈ちゃん……一年以上ぶりだなぁ、覚えてるか?」

 紗奈は、祖父である俺の親父をじーっと見る。

「おじいちゃん」

「そうだぞ! よく来てくれた。あ、居間で久美子と健太がおるぞ。2人は仕事帰りで俺も今からご飯だから一緒に食べようか」

「パパ、いこ!」

 紗奈は夕ご飯前に病院に行ったらしくお腹が空いているようだ。俺から降りて、廊下を駆け抜けていく。


 久美子おばさんは父の妹で、健太はその息子。つまり従兄弟である。彼らも同じ団地内に住んでいるので何かと集まりがあると必ずいる2人である。(おじさんは離婚してここにはいない、ちなみに俺の母親もだ)きっと俺が急に帰ってくるからと何もできない父の代わりに来てくれたんだろう。でも晩御飯の用意は自分ができる! とか言ってはいたが、きっとあれだろう。


 居間に行くと驚いた顔した久美子おばさん、そして健太がいた。

「帰ってきたわねー。小さい彼女さん連れて」

「だから彼女じゃなくて」

「わかってるわよ。見ないうちに大きくなったねぇ、紗奈ちゃん」

「急にごめんね」

「2人で寂しく食べるよりみんなでたまには食べたいじゃない。あ、布団も用意してあるからね」

 久美子は明るく振る舞いながらヤカンでお湯を沸かして親父が用意していた緑のたぬきと赤いきつねの蓋をめくって用意する。

「早く言ってくれたらマルちゃんの焼きそば作ったのにね……明日昼間いる?」

「うん、明日の夕方くらいに紗奈を病院に連れて行く」

「病院に?!」

 事情を話すとみんなびっくりした。元妻も実家に数回は連れてきているがあまり親戚付き合いが好きではないからあまりおばさん達との交流はないし、もう子供が生まれるのかとびっくりしつつも

「まー、紗奈ちゃん。お姉ちゃんになるのね。よかったら連れてきて。ここの街も来年の夏には再開しそうだしね」

 ……元妻と新しい家族を呼ぶのはあれだが、来年には祭り再開したら祭りに行ったことがない紗奈もよろこぶだろうな。


 うちの実家の近くに親戚がたくさん住んでいていきなり集まっては飲んで食べてをして賑やかだったな。

 母さんがいなくてあまり振る舞うのが苦手な親父はとりあえず緑のたぬきと赤いきつねをだして食べていたな。


 どっちを食べるのか取り合いもしていたが何故か緑のたぬきの比率は大きかったのはなんでだろう。

 二つとも我が家系のソウルフードではあるが、すかさず緑のたぬきを手にした親父を見るとああ、好きなのはそっちなのかと今になってわかった。


「おじさんのこと覚えてる? けんちゃんって呼んでくれたよねー」

「うーん、覚えないけど面白そう」

「ありがとなー」

 健太は赤いきつねの方を手にしていた。きつねのように目を細めて笑いかけてすぐ紗奈は打ち解けた。


 親父も久しぶりに孫を見れたことで喜んでいる。仏壇まで紗奈を連れていく。仲睦まじく寄り添ってるように見えるだいぶ前の祖父母それぞれの写真。俺は手を合わせて目を瞑る。隣で紗奈も真似して手を合わせてぶつぶつ言ってる。きっと神社と勘違いしたのだろう。


 俺はじいちゃん、ばあちゃんみたいなこんな仲良しな夫婦になれなかった。ごめんな。あとね……。


「はい、何やってんの。もうできたよ」

 あぁ、お湯入れてもらって数分。俺は色々考えていた。気づけば紗奈はいなくて隣には久美子おばさんが緑のたぬきと赤いきつねを二つ持って仏壇前に置いた。じいちゃんの方に緑のたぬき。ばあちゃんの方には赤いきつね。


「 今日は哲太がひ孫連れてきました記念でお祝いよ、あの2人も一緒に食べていたもんね。それぞれの味を交換しあって。来年には他の親戚も一緒に食べられるといいわね」

 久美子おばさんは俺が緑のたぬきを選んで、紗奈に赤いきつねをあげて残った緑のたぬきを手に取った。どっちでもいいんだろうな。きっと。


「明日の昼はマルちゃんの焼きそばを作ってあげるね」

「わーい!!」

 ああ、マルちゃんの焼きそばは久美子おばさんが親戚の子供達や俺の友達のためにホットプレートで作ってくれたなぁ。みんなで食べて楽しかった。取り合いになってな。

 紗奈はうどんをふーふーしながら不器用ながらも食べていた。俺がうまく切ってやった。1人で食べれるかもしれないが。

「美味しいね」

「ああ、美味しいな」

 じゃあ俺も食べるか。たった少しだけだが紗奈と俺の実家で過ごすこの時間は本当に大事だ。


 自分でお湯を入れて1人食べる緑のたぬきも悪くはなかったが、やっぱ実家で落ち着いて食べるのもいいな。

 紗奈もだろ。今は母親と2人きり、親戚もいなくてこのご時世、賑わって食べることないだろ。俺ももっと親戚や友達と食べたい。


 それにもう早くとも春までには紗奈たちは新しいおとうさんの元に行くと言っていた。それもさっき聞かされた。まぁ新しい家族できる時点で何かしら覚悟はしていたが。


 なかなか前よりも会えなくなるかもしれないけど、おじいちゃんや親戚やそして父親である俺がお前のことを遠くからみまもっているからな。それに東京にも会いに行くからな!!! いや、ここにこい。いつ来ても待ってるから。じいちゃんは緑のたぬきや赤いきつね常備してるからお腹空かないだろうし、昼は久美子おばさんが焼きそばをつくってくれるさ。俺も……何か作ろうかな。なにがいいかな。


「哲太、何泣いてるのよ」

「七味多めに入れちゃったよ」

「ベタよねぇ〜」

 ううう、情けないよ。

「ベタァ?」

 そのさなの一言で涙引っ込んだ。また次に会えることを楽しみにしているよ、会えない時も赤いきつねを食べて思い出すんだよ、紗奈。


 終

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いつかまたこうして会えるのを楽しみにしている 麻木香豆 @hacchi3dayo

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