蓼食う虫にドキドキ

マチュピチュ 剣之助

運命のパーティー会場 その1

「ごめんなさい、あなたには興味がないの」

 花田はなだ みひるが、花束を持って告白に来た田中たなか 正人まさとにそう言い放った。気の毒な言い方だが、田中はえない印象の男であり、みひるは魅力を一切感じられなかった。田中はしゃがみこみうなだれているが、みひるは田中の様子を気にもしないで、その場を去っていった。正直こんな光景は、みひるにとっては日常茶飯事であった。


 みひるは、幼稚園の頃からずっと男子にモテ続けていた。大きな瞳にすっとした鼻立ち。背はそこまで高くはないが、スラっとした体形をしており、その外見は女優と見間違えるほどであった。実際に、みひるはこれまで何度もスカウトされたことがある。


「みひる、かっこよかったよ。スカッとした!」

 みひるが田中を振っているところを目撃していた、親友の岩谷いわたに 未希みきが駆け寄ってきた。

「何言っているの。ただ、コクられたからお断りしただけよ」

「それがかっこいいって言ってるの!あの田中って男、みひるにはすごく紳士ぶっていたけど、私たちには本当に態度が悪かったんだよ。すごくいつも下に見られているって感じだった」

 未希は興奮しながらそう話す。どうやら、未希は田中を憎く思っていたようだった。

「ふうん・・・」

 みひるは興味なさそうに答える。実際田中の性格なんて知ろうとも思っていなかった。


「ねえねえ、そんなことより今度パーティーに行かない?恭子きょうこのお父さん主催のパーティーに友達連れてきてねって言われているの」

 恭子とは、未希の高校時代の友人であり、みひるも顔見知りであった。恭子の父親が、大企業の社長であるらしく、そういったパーティーを定期的に開いているらしい。

「パーティーね。楽しいかなあ」

「絶対楽しいよ!あらゆる業界の人がたくさん参加しているみたいだし、もしかしたら良い出会いが待っているかも!」

 興奮している未希とは裏腹に、みひるは少し醒めていた。

「良い出会いねえ、そんなのあるかしら」

「もう絶対あるよ!いいね、約束ね!今週末の土曜日だから絶対来てね!」

 未希はそう強引に決めて帰って行った。


 良い出会い、そんなのあるだろうか。みひるは既に疑問に思っていた。

 みひるはこれまで数えきれないほどの男と出会ってきていた。デートも飽きるほどしてきたし、付き合うことも何回もしてきた。しかし、毎回みひるは飽きていたのだ。話がつまらなかったり、何気ない仕草が気になりだしたり、理由はくだらないことではあるが、みひるはそのような原因で男を何回も振ってきた。そして、一番の要因は男の容姿がみひるの理想には合わないのである。みひるの理想の男性像はすごく高いため、そのような条件を満たす男なんてまったく現れていなかったのだ。




「みひる、お待たせ~!あら、素敵なドレスね」

 パーティーの日がやってきた。みひると未希は近くの駅で待ち合わせをしていた。

「ありがとう、未希。未希のドレスも素敵よ」

 そう、みひるは返した。正直未希の化粧はいつもより濃くて、すごく気合が入っているように感じられたが、みひるはそのことには触れなかった。


 パーティー会場に入ろうとすると、入り口に誰かのハンカチが落ちていた。

「あれ、誰のハンカチかしら」

 そう言ってみひるはハンカチを拾った。ハンカチは男性のもののようであったが、拾うとふんわりと良い香りがした。

「きっと、落とした人はパーティー会場にいるわよ」

 未希にそう言われたので、みひるはハンカチをカバンの中にしまい、会場へ入った。


 会場に入って、端の方のテーブルに拾ったハンカチをそっと置こうとした。そうすれば、落とした人がやがて見つけるだろうと思ったからだ。

「あ、すみません。そのハンカチ私のです」

 ハンカチをテーブルに載せた瞬間、後ろから声が聞こえた。良かった。落とし主が見つかったのだ。

「あら、良かったです。会場の入り口に落ちていたので拾いました」

 みひるはそう言って振り返ったが、その瞬間思わず固まってしまった。



 その場に立っていたのは、背が高く、目鼻立ちもはっきりしていて、清潔感にあふれた30歳くらいのイケメン男性であったのだ。

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蓼食う虫にドキドキ マチュピチュ 剣之助 @kiio_askym

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