駿河凪の人生は不幸に見舞われていた。
天涯孤独の身の上に、道を歩けば通り魔に襲われ、頻繁に行き倒れる。
しかし何より一番辛いのは、死神の<共謀者>として人の死を眼前で見なければならないことだった――。
なぜ死神と関わることになったのか。その経緯については前作『死神の共謀者』で語られていますのでぜひそちらをご覧ください。
本作は凪がそんな死神のもとを逃げ出したところから始まります。が、もちろん本作から読んでいただいても大丈夫な内容でした。
物語は主人公・凪を中心に、彼に執心する人外の存在・死神、そして行き倒れた凪を偶然拾った作家の青年・千秋と、掌編ごとに語り手を変えて一人称で進みます。
ネタバレ無しで本作の魅力を語るならば、それぞれが吐露する繊細な心理描写の一言。
この物語の登場人物たちはみな(本人が自覚しているかどうかは別として)相手に対する情が深い。
語り手に感情移入した読者は、「誰かを大切に想うってこんな気持ちだった」と追体験することでしょう。
ちなみに本作はBL的な描写がありますが、男同士の恋愛を描くことが目的ではなく、彼らの情愛を描き出すために必要な手段であると受け止めました。
主題は相手を想う気持ちであり、それは性別も、ときには種族さえも超えてしまう強い感情です。
凪は最後に、誰を、何を選ぶのか……?
他者から与えられることで初めて満たされる、優しさと甘さに溢れた幸福感。
ぜひ彼らと一緒に体感してみてください。
この作品は単品でも読めるのですが、シリーズを通して読むと味わいが深まって大変よろしくて、ぜひとも「死神の共謀者」を読んで死神と主人公の凪との関係を知った上で「いつかまた奈落の底で会う君のために」で死神の過去を知ってから、本作にたどり着いていただきたいです。
でもこの作品から読みたいという方に向けて簡単に解説しますと、凪はものすごい不幸体質ですが、父親を亡くした事をきっかけに命の危機レベルの不幸に見舞われるようになります。犯罪者に殺されかけるというのが主な危険ですが、大けがを負ったあたりで死神に助けられてるパターンが「共謀者」での死神と凪の関係。
「逃亡者」ではスプラッタな死神の元にいる事に耐えかね、凪が逃げ出した後、新たな出会いと関係を築いていくストーリー。
鴨川千秋という作家と出会い、よくわからない微妙な距離感で二人は付き合っていくのですが、何故か彼といる間は凪から命の危機が遠のいていくという不思議な現象が。
凪の不幸の原因は何なのか、そしてその解決方法にたどり着けるか? というのが主軸ですが……。
凪の死神への感情、死神の凪への感情、千秋の凪への感情、凪の千秋への感情など、3人の関係の距離感がとにかく良い! 今時ならエモいというべきでしょうか。
凪の事を想うと千秋と関係を深める方がいい、でも死神の気持ちを想うと凪は死神と関係を深めて欲しいみたいな、くそどっちも捨てがたい! という心の揺れが読者を襲う。三角関係なのにどちらも応援したくなる絶妙バランスがたまらない。
主要登場人物が全員男なので、心を交わす話の流れのうちにボーイズラブの方向に行ってしまうのですが、それも仕方なし! と思ってしまうのです。