第7話 アルマゲドンモード
「戦闘状態でパイロットが操縦不能か死亡した場合、中のパイロットを保護する為にアルマゲドンモードになるんだが」
「アルマゲドンモード?」
テレビに映る巨大ロボットの説明に物騒な響きが出てきて、オスカーは顔を引きつらせた。
「ロボット本体を守るために残存兵器を全周へ無差別発射。周りが全て吹き飛べば、少なくともロボットは安全だから」
だがすぐさま目が赤く輝くとロボットは全身の武器発射口を開き一斉発射した。
周囲にビームやミサイルや銃弾が着弾し極彩色の爆発を起こしている。
「うわあ」
その光景を見てテルもオスカーも唖然とした。
流れ弾もあるだろうが、殆どは車両センターの中に落ちている。
労働者の怒りとか言っていたが自分たちの身に降り注いでいるのはシュールだった。
『はあああっっっ』
活火山の噴火のように武器を放っているロボットにクラウディアが突撃した。
降り注ぐ攻撃を切り伏せ、開いた開口部から剣を突き立てて突入し、中を吹き飛ばして反対側に突き抜けた。
「あ、拙い」
テルがつぶやいた瞬間、ロボットが搭載していた魔力炉が暴走して大爆発を起こした。
爆煙が晴れた後にはグラウンドゼロ――吹き飛んで何もかも無くなって更地となっていた。
「……車両センターなくなっちゃったな」
「ああ」
幸か不幸か、ロボットとクラウディアが戦い始めるとストを行っていた労働者達は逃げ出してセンターの中は無人となっていた。
ロボットが暴れたために施設は元から崩壊していたが、何もかもなくなった。
『ふう、終わった』
ただ一人クラウディアだけがやり遂げた爽やかな笑顔を浮かべてたたずんでいた。
『これでテルの元に行ける』
剣を掲げた彫像のような美しい立ち姿だったが、台詞を聞いたテルはうんざりした。
「なあ、テル」
「ああ、分かっているよ」
愛する鉄道施設を破壊した事に怒りを感じるが、元凶はストを行った労働者達だ。あんなロボットを使わなければセンターは破壊される必要はなかった。
姉であるクラウディアは暴れるロボットを止めたのだから褒めて然るべきだ。
「プディングかクッキーでも作っておくか」
部屋に残っている砂糖、あるいは蜂蜜で十分に作れるはずだ。
クラウディアが来るまでに作れる。買ってきてくれるであろう砂糖は、届いてから作る料理に使えば良い。
「でもどうしてあのロボットがあそこに入ったんだ。書類の記入を間違えたか。それとも輸送中にシンパに奪われたのか」
テルは今回の元凶になったロボットが何故、あそこにあったのか考えた。
『さて、砂糖を買ってテルの元へ行くとするか』
しかしクラウディアの言葉で考える事を中断してキッチンに向かった。
「来るまでに何か作っておかないと、出来れば姉さんが持ってきた砂糖を使ったお菓子の下ごしらえも」
「お手伝いします」
「頼む」
側に寄ってきたレイにテルは感謝しながら指示を下す。
三年ほど前に自分の執事になってくれた同年齢の友人に感謝しながら。
テルが書いたロボットの配送書類の行き先を受理寸前で書き変え、国鉄のガンであるディセアグリッパのセクトにロボットを送り込んでハッパを掛け、ロボットを使ったストを決行させ、クラウディアを送り込んで自滅させる。
程良く欠陥ロボを使い回して周辺に被害を出し、自らの活動拠点を破壊して消滅させた。
レイ自身が関わった証拠も皆灰燼に帰したため、ばれる心配はないし、セクトが壊滅して万々歳だ。
何よりテルの困った顔を見れてレイは満足だった。
「レイ、オーブンを温めて」
「はい、勿論です」
レイは誠心誠意、心を込めてテルに仕える事を改めて誓った。
テルの驚く顔を見れる側に居るために。
「でも、今回はテルは見ているだけだったな」
渦中の中心で右往左往する姿がテルの一番輝く瞬間だとレイは思っている。
「今度は騒動の中心に入るように仕掛けるとしましょう」
決意を新たにレイは次の騒動を考え始めた。
転移者の息子 恐怖の日朝編 葉山 宗次郎 @hayamasoujirou
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