あらゆる方法で読者を楽しませてくれる

ストーリーや設定の緻密さや背景知識の量、戦闘モノとしての面白さなどは恐らく他の方が指摘されていますし、そうしたものに疎い私には細かく語れないのですが、私が何より感服させられたのは演出の多彩さです。文字を文章だけではなく「絵」として使って情景を「描写」したり、中盤からは読書中のBGMを指定したりと、普通の小説の枠にとどまらない総合的な「芸術」を志向されているな、と思います。キャラクターの数、ストーリーの複雑さなど、情報量がとにかく多い作品ですが、私みたいに覚えられない人でも、不思議と主な流れはわかりますし、何よりも「その場」の臨場感を楽しめるようになっています。
なお、本作は戦争ものですが、弱者たちの苦痛にフォーカスするというよりは、超常バトルの前線に立つ「自分の強さに呪われている」ような人たち(人外達)の群像を描くような作品になっています。
人間の尊厳だとか戦う意味とかについて葛藤し確認している暇はありません。異形たちは容赦なく人類を踏みつぶし、青い地球を極彩色に染めて行きます。
まるで誰もが歴史の大きな流れに巻き込まれてしまって、抜け出せなくなってしまったような……。その流れの行き着く先はもう決まってしまっているのか、誰の意思が作った流れなのか。……全貌が見えるのを楽しみにしたいと思います。

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