番外編 家族で朝食を。

「ねぇねぇ、博人。今年はどんなチョコが欲しい? 博人が食べたいのを今年も作るからね」





 乃愛がにこにこと笑いながら、僕をじっと見つめている。




 乃愛と結婚をして、しばらくが経つ。結婚後も乃愛は僕に対して昔から全く変わらない。

 相変わらず僕に飽きる気配はなく、いつもこの調子だ。





「そうだなぁ。ケーキ系食べたいかも」

「じゃあ作るね!!」




 乃愛はにこにこと笑って、僕にべったりくっついている。






「母様、相変わらず父様にくっついているの?」

「相変わらず母様は献身的だね」







 双子の娘、華乃と志乃はそう言いながら僕らのことを見ている。



 二人は今は黒髪黒目に見えるように変化させているが、実際の髪色は元の乃愛――異世界の神としての乃愛の見た目を受け継いでいる。

 華乃は実際は黒髪赤目、志乃は白髪黒目である。流石にその状態だと目立つので、色を変化させている。






 この二人は、分類的には半神と呼ばれる神よりに近い存在らしい……。実際に産まれた時から、明確な自我があって直接僕の頭に思考を送り込んでくるなんてこともよくあった。

 ちなみに娘たちにも僕の思考は読めないらしい。

 普通とは違う娘たちだけれども、乃愛と僕の娘だからそういうこともあるだろうと思っていたし、僕は受け入れて可愛がって育てたつもりである。……娘たちには「父様って本当に凄いよね」「そうやって簡単に私たちのことも受け入れちゃうから母様がべた惚れなんだろうね」と笑われた。





 どういう子供だろうと、自分の子供なら可愛がるのは当然のことだと思うけれど。




 それに他でもない乃愛との子供だから、そういう特別な存在のは最初から分かっていたことだし、それを後からどうのこうのいうのならばそもそも乃愛と結婚なんてしなければいいって話だしな。

 一般家庭なのに母様父様呼びしているのは、二人からしてみれば母であり自分よりも位の高い神である乃愛を様付けするのは当然で、父であり乃愛を簡単に受け入れている僕に敬意を表すのも当然らしい。







「華乃、志乃。咲人はまだ寝ているの?」

「寝てそう。起こしてくる!」

「あ、待って。私も行くわ」




 僕の言葉に華乃と志乃はそう言って、リビングから出て行った。




 咲人というのは、今年六歳になる末の息子である。ちなみに華乃と志乃は咲人の三つ上だ。人と同じように今の所成長している(というか成長させている)らしいが、二人は半神なのでよっぽどのことがないと長生きするらしいと乃愛が言っていた。




「乃愛、いい加減離れて。朝ご飯の準備は?」

「大体終わってるもん。私は博人にくっついてたいの! 今から博人、お仕事いっちゃうでしょ? 本当はいつでもどこでも博人と一緒に居たいけれど、ちゃんと専業主婦やってるんだよ? 博人成分補充は大事だからね」

「……子供たちが戻ってきたら離れてね?」

「うん!!」




 なんだかんだ僕も乃愛に甘いなと思うけれど、うん、乃愛はなんていうか凄くちゃんと主婦をやってくれているのだ。

 僕が普通に、ただ日常を過ごしたいと言った言葉を忠実に守ってくれている。

 本当は凄い力を持っている異世界の神様なのに、そんなことを全く思わせないぐらいに大人しく生活しているのだ。

 乃愛が隣にいてくれるから楽しく暮らせていて、僕が望んでいた平穏な暮らしが出来ているので甘やかしてしまう。




 しばらくして子供たちがリビングにやってきたので、乃愛は僕から離れててきぱきと準備をし始めた。





「お母さん、お父さん、おはよう」





 そう言って眠たそうにやってきた咲人は僕に似ている。





 黒髪黒目で、顔立ちも僕に似ていて――だから乃愛は咲人を気に入っているらしい。

 ……乃愛は僕との子供だから、子供たちのことを可愛がってはいる。ただやっぱり人と神の感覚は違うので、結局乃愛は僕のことが最優先らしい。多分僕と子供たちどっちを取るかなど迫られたら間違いなく確実に子供たちを見捨ててでも僕を取るだろう。




 華乃と志乃は神の血を引いているという自覚はあるし、乃愛が自由奔放な神様だと分かっている。だから正直問題はないけれど、咲人はそんなことを全く知らない。




 僕が人としての死を迎えたら乃愛は僕の魂を異世界に持ち帰るだろう。そして半神である娘たちも異世界へと行く確率は高い。娘たちは人よりも神に近い存在だから。

 ――咲人にとって、どういう選択が良いのかは乃愛と話し合った上で考えようとは思っている。まぁ、乃愛は「どっちでもいい!」と言いそうだけど。






「博人? どうしたの? 何か考え事?」

「いや、なんでもない。朝ご飯にしよう」

「うん!」




 それから家族五人で朝食を食べ、いつも通りの日常が始まった。




 ――まぁ、なんにせよ。

 僕は父親として咲人が後悔のないように歩めるように手助けをしようとそう思うのだった。

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薄井君は気づいているけど、気づかないふりをする。~高校三年生に上がったはずが、二度目の高校二年生を過ごしている件~ 池中 織奈 @orinaikenaka

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