終幕 彼女は少年の側で幸せそうに過ごし続ける。

 異世界の女神、ノースティア。

 闇の女神とか、邪神とか――恐ろしい呼び名を持つ女神様。





 その存在は、異世界の人々に恐れられている。

 特についこの前、その女神が怒りをあらわにした一件はその姉である光の女神をも恐怖で身体を固まらせたものである。




 邪神の逆鱗。

 闇の女神の秘宝。






 そう呼ばれるモノか、ヒトか。何かは分からないけれども存在することをその者たちは知った。

 そして知らないうちに、ソレに手を出してしまったからこそ彼女は怒りを見せた。








 彼女は愉快犯で、自由気ままで――何も大切にせずに、気まぐれで、そんな風に本気でその怒りを見せることは今までなかった。






 今まで彼女が見せていた怒りと呼ばれていたものが、本気ではなかったことを光の女神も勇者も悪魔たちも――全員が知った。

 本気で怒った彼女は、こんなにも恐ろしいのだと。





 圧倒的な力を持ち、どんな存在だって屈服させる魅了を扱い――それを制御できるものなどいない。

 その彼女が本気で、心の底から大切なモノを作った。




 その事実に光の女神は衝撃を受けた。それと同時に、ソレに手を出してしまえば今度こそ取り返しのつかないことになると知った。






 だから、日本とその世界の繋がりを完全に閉じるということに頷いた。




 光の女神は問いかけた。




 ――ノースティア。貴方の大切なモノは日本にあるのですか? 紹介はしてくれないのですかと。




 以前彼女の大切なモノは光の女神と会っているものの、彼女に記憶をいじられているため光の女神も覚えていないのだ。





 ――私のダーリンが異世界に行くことを納得してくれたら、その後紹介するよ。




 そんな風に彼女は笑うだけだった。






 



 そして地球の日本に関わっていた異世界関連の人々は、その出来事を持って異世界へと完全に撤収した。そして地球にまたやってこないように、その道も完全に彼女自身が閉じた。






 その道が次に開かれる時は――、彼女自身が何十年後かに異世界に帰る時だろう。

 とはいっても一度だけで、通った後にまた完全に閉じるだろうが。







 ただ一人、この地球の日本に残った彼女は、








「博人ー!!」




 今日も愛しい少年の名前を呼んでいる。





 美しい白い髪と、赤い瞳をすっぽり隠し――少年の傍にいるためだけに黒髪黒目に変化させ、何も彼も自由に出来る圧倒的な力を使わず……本当にただの一人の少女としてそこにいる。






 異世界での彼女を知る者たちが見れば、目を剥く光景であろう。

 なにかに彼女がこれほどまでに執着することは、長い神としての生の中でなかった。少し気に入ったとしても、すぐに飽きるのが彼女だった。





 ――だけど、今の彼女はたった一人の存在に執着している。

 そしてその執着の気持ちはなくなる気配が全くない。寧ろその気持ちはどんどん増して行っていると言えるだろう。








 少年にその力が効かないことが一番のきっかけ。

 だけどそれ以外もすっかり少年のことが彼女は気に入っている。






 彼女の力を少年は気にしない。その力を利用しようともしない。ただあるがままにそこにあり、彼女が神だと知っていても、いつも通りである。

 それこそ異世界の人々が全て撤収しても、正直言って少年は変わらない。元々気づかないふりをして少年は過ごしていただけなので、それが必要なくなったとほっとはしているようだ。


 






 ただ力も使わずに、ただの少女としてそこにいる彼女は幸せだ。

 愛しいものに出会えたから。そしてその存在の子供を将来的に産むのが確定し、このままずっと少年の傍に居られるから。






 きっとこの先も少年には飽きず、ずっとその傍にいつづける。

 そんな未来を知っているから、彼女は幸せそうに笑っている。








 ――そして死んだ後だって、その魂を離すつもりはなく。

 絶対に少年を説得して、異世界に連れて帰って一緒に遊びたいと思っている。




 許可されなければ魂だけ連れ帰るけれども、それだと愛しい少年と話せなくて寂しいし嫌だと思っているから。






 だから、絶対に説得して見せるとそう決意している。







 神である彼女にとって、人間の生が終わる数十年は短いと言える。それでも愛しい少年と一緒の数十年は彼女にとっての宝物になり続けるだろう。









 どうしようもないほど強く、何でも自由に操れた。

 そんな存在は、地球の日本という場所でたった一つの唯一を見つけた。






 ――彼女は少年の側で幸せそうに過ごし続ける。


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