第158話 魔王のパートナーは

「と、言う訳なのよゼッカちゃん」


 ギルドホームにて、丁度狩りを終えた三人組と合流したヨハンは、ゼッカにことのあらましを説明した。

 無論、運営が絡んでいることは伏せて……だ。それは、正式に組むことが決まってから話そうと考えている。


 ピエールの計らいで、ヨハンがトーナメントで戦う回数は、二回となった。ひとつは予選開始前のエキシビションマッチ。

 もうひとつは、トーナメントを勝ち上がってきたチームとの最終決戦。つまり、最終戦までシードされていることになる。


 それで参加者は納得しているのだろうかとヨハンは疑問に思ったが、ピエールが『タッグトーナメントに魔王ヨハン参戦決定!!』と告知したところ、参加人数が倍近くに増えたらしい。


 まだ告知して一時間くらいよね……? と驚くヨハン。やはり強くて頼れるパートナーを見つける必要があると感じた。

 そして、タッグパートナーとして一番に頭に浮かんできたのは、ゼッカの顔だった。


「光栄です! ヨハンさんに選んで頂けるなんて……! ヨハンさんと私なら、必ず挑戦者をブチのめせます!!」


 秒でオーケーが出た。


「ありがとうゼッカちゃん。貴方ならきっとオーケーしてくれると思ったわ」


 ゼッカが受けてくれて安心するヨハン。だが、横で聞いていたギルティアが待ったをかけた。


「ゼッカ、アンタはそれでいいの?」

「いいのって……何が?」


 少し苛立ったようにギルティアに向き直るゼッカ。


「ヨハンさんのおまけ。本当にそれでいいのかって聞いてんのよ」


「おまけ……?」


「おまけというより腰巾着? ずっとヨハンさんの横に居て、『流石ですヨハンさん!』『素敵ですヨハンさん!』て言ってるだけ。それがアンタの目指す最強なの?」


「私、そんなこと言ってない!」


「言ってなかったっけ? まぁでも……そんなこと言ってるイメージなのよ、アンタ」


「がーんっ!?」


 助けを求めるようにミュウの方を向いたゼッカ。ミュウも同じイメージを持っていたのか、苦笑い。否定はしなかった。


「あ、あのーゼッカちゃん? 私、ゼッカちゃんを腰巾着だなんて思ってないわよ……?」


 落ち込むゼッカに声をかけるヨハン。だが、その声は彼女には届いてはいないようだった。


「ヨハンさん……申し訳ありません。タッグを組むという話は、なかったことにさせてください」


「えぇ!?」


「そして約束します。私はタッグデュエルトーナメントに出場し、必ず決勝でヨハンさんを倒す」


「……っ!?」


 いやそういうのいいから……と言おうとしたヨハンは、思わず口を塞ぐ。ゼッカの真剣な目。迷いなくこちらを射貫く、熱い輝きを持ったその目にドキっとする。


 ゼッカは、真剣だった。


 裏事情を知っているヨハンは、少し複雑だ。もし普通に参加すれば。圧倒的なステータスを持って参加するスタープレイヤーたちと戦うことになる。


 最強になりたい。そんな目標に向かって頑張ってきた目の前の少女が、潰れてしまうのではないか。そんな不安が、ヨハンの胸を過る。


 だが。


(信じよう。この子なら……きっと大丈夫)


 その目の中の若い輝きを、信じようと思った。


「わかった。王座で待っているわ。必ず勝ち上がってきてね」


「はいっ! 約束です! うおぉおお燃えてきた!!」

「アタシ! アタシと組もうゼッカ!!」

「私もサポートするよ!」


 盛り上がる三人。その様子を微笑ましく思いながら、ヨハンはそっと、ミーティングルームを後にした。


***


***


***


「ああああ。『王座で待っているわ』なんて格好付けちゃったけど……どうしよう」


「もきゅ」


「え? 『パートナーなら俺が居るだろ』って?」


「もきゅー!」


「嬉しいけど……駄目なのよ。タッグパートナーはプレイヤーじゃないと」


 そこに関しては、ピエールに釘を刺されていた。ちなみに祭り当日はかなり忙しくなるとのことで、ピエールもパートナーとしては選べない。

 なにやらトーナメントとは別に、裏でもう一つ企画を動かしているらしい。


「もっきゅもっきゅ」

「怒らないでーヒナドラ」


 頭上のヒナドラを宥めつつ廊下を歩いていると、独特の足音が聞こえてきた。白いゴリラのぬいぐるみに身を包んだ少女、レンマだった。


「レンマちゃん! こんばんわ」

「……こんばんわお姉ちゃん。どうしたの、困った顔をして」


 ヨハンは「それがねぇ」と、レンマに事情を説明した。


「……げぇ、あれお姉ちゃんも出るの? ライバル多いな」


「げぇって……酷いわ。って、ちょっと待って、もしかして?」


「……うん、ボクも出るよ。タッグトーナメント」


「ち、ちなみにお相手は?」


「……お相手はって、大げさだよお姉ちゃん。恋人じゃないんだから。えっと、竜の雛とは関係ない、普通のプレイヤーだよ」


「そう」


 思わず泣きそうになるのを抑える。ヨハンは内心、自分たち以外とまったく交流のなかったレンマのことを、とても心配していたのだ。

 そんなレンマが、竜の雛の外で。自分たちのまったく知らないプレイヤーと交流していた。


 それがとても嬉しかった。


 だから、レンマを誘うことはしなかった。いくつか言葉を交わし、その場を後にする。


***


***


***


 その後も、ヨハンの勧誘は続いた。片っ端だったと言ってもいい。



 コンの場合。


「え、魔王はんも出場? ならウチも出るー! もちろんライバルや!! 絶対に負けへんよ?」


 と速攻で敵に回った。



 ドナルド・スマイルの場合。


「当日はリア友を呼んで店を出店するのよね~☆」


 と怖い話をされた。



 煙条Pの場合。


「私には荷が重い」


 と普通に断られた。



 オウガたちの場合。


「俺には倒すべき奴がいる」


 と断られた。



 そして、他ギルドの知り合いにも声を掛けてみたものの。


 ヨハン参戦を聞いた大方の反応は「自分には荷が重い」か「お前が出るなら俺も出る。もちろん敵な?」という反応で、ヨハンと組もうという人間を見つけることはできなかった。


***


***


***


「え、もしかして私って人望ない?」


 第一層はじまりの街の噴水広場でひとり呟くヨハン。


 流石にこれだけの人数に断られると、心に来るものがある。もう少し早く出場することがわかっていれば、また違ったのだろうが。


 また、勝ち上がってきたスタープレイヤーを撃破しなければならないというミッションがある以上、半端なプレイヤーではいけない。


 自分と同等かそれ以上の強さを持ったプレイヤーでなければ意味がないというのも、スカウトのハードルを上げる一要因だった。


「この際、知らないひとでもいいか……いや駄目だわ。上手くやれる自身がない」


 裏事情的に知り合いも巻き込みにくいが、知らない人ならもっと巻き込みにくい。


「ああ、どうしましょう」


 ヨハンは行き詰まり、頭を抱えた。


 そのときだった。


「おや、何かお困りですか、ヨハンさん」

「えっと、君は……」


 不意に声を掛けられた。俯いていた顔を上げると、そこには長髪の美青年が、心配そうな顔でこちらを見ている。


「ロランドくん! 帰ってたのね!」


 現れたのは元ランキング1位のプレイヤーロランドだった。一か月以上に渡る海外での仕事から、戻ったようだ。


「久しぶり。元気そうね!」

「ええ、お久しぶりですヨハンさん。ところで何かお困りですか? それなら是非、私を頼ってください。必ず力になりますよ」

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【書籍化】お前のような初心者がいるか! 不遇職『召喚師』なのにラスボスと言われているそうです 瀧岡くるじ @KurujiTakioka

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