噂
結局なんのひねりもなく塩パンをいくつか買い帰路についていた。周辺はやっと朝の雰囲気を出してきていてほのかに明るくそれがまた刻一刻と時間が迫ってきていることを俺に知らせている。
「自分を追い詰める必要はない。にしても少なくとも自分で考えなくちゃ解決できるものも解決できねえよな。」
こんな独り言を延々と繰り返しているうちに家についていた。集中してれば時間って一瞬なんだとつくづく痛感する。
ドアを開けると家の中から暖かな空気と蒸気が沸いていた。
「今帰った。」
「ありがと~すぐ行くわ~」
その返事を聞き、まっすぐリビングへと向かいシノを待つことにした。マグカップに熱湯を注ぎ、ミルクティーの粉を入れる。かき混ぜながら外の様子に目を向ける。程よく雲が散った青空に日が出始め、鳥が歌い、花は咲き誇る。こんなにいい日だというのに外に出ない選択をすれば愚かだと皆に後ろ指をさされてしまうだろう。そんなまでに清々しい日だ。
テレビをつけ、朝から自分以外の音を楽しむ。
「おまたせ~」
制服を着て湯気を放っているシノが登場した。
「大して待ってない。塩パンでも買ってきたから食えよ。」
「ほんま~ありがとう。」
シノはどこか上の空気味な様子で椅子に座り、パン屋の袋を漁った。
そしてそのまま静かに口にパンを運ぶ。何か考え事でもしているのだろう、いつもに比べて静かなシノに違和感を感じつつもそんな姿を見て可憐だと感じる自分がまた存在していた。
「お前って…」
「あのさ…」
お前って黙ってたらかわいいよな、と口を開こうとしたまさしくその時シノが口を開いた。
なんだか気まずい空気が俺たちの間に生まれてしまい、それを打開するため俺は再び口を開いた。
「どうした。」
変に気まずい空気に包まれているせいかシノの表情もどこか怖ばっているように見えた。しかし次の瞬間からそんな様子をガラッと変え、いつものほのぼのとしたシノで話始めた。
「いやー大した話とちゃうねんけどな、うちが都市伝説とか陰謀論好きなの知ってんやん?」
「ああ。」
「それでな、最近面白い陰謀動画見つけたんよ!」
そういいテンションが上がるシノの表情にはやはりどこかかたさが残っていた。
「最近天気予報全部変わって晴れになったやん?」
なにか話すのをためらっているような様子だった。しかし、さっき同じようにすぐ表情を変え、話す。
「あれって巷では政府の核実験の影響とからしいで~知らんけどな!」
「そうか。また馬鹿な話を持ってきたな。」
なんて表面上は言ったものの内面ではいきなり突き付けられた、未来に酷似しすぎた噂話に半端なく動揺していた。
「アホなこと話してねえでとっととパン食えよ。」
「この話、知ってた?」
恐る恐るそう聞いてくるシノにどこか知られているのではないかという感情に覆われる。
「すまないな。現実主義なもんで。さ、とっとと食って家でろよ。」
すました態度でパッと話を切り上げた。とたんシノの表情は明るくなったように見えた。
「せやな。ほな行ってくるわ!」
「ああ。俺は部屋に帰るから、気を付けてな。」
そういいリビングを背にした。胸の鼓動以外何も聞こえなかった。心音が、心音以外の何物をも静寂に変えたかのようだった。
部屋へつき、ドアを閉める。なぜだろうか生きた心地がしない。もうゆっくりしていられなさそうだ。
考えはある程度まとまっている。まずハッチを探す。しかし、その後どうするかが全く浮かんでこない。どうやってそのハッチの場所まで逃げるのか。
そんなにずっとハッチのことを考えていると、あいまいだが昔近くでそれらしいものを見たことがあるという記憶が思い浮かんでくる。どこなのかはわからないが、近くでだ。嘘か本当かもわからない。狂った人間の戯言にすぎないだろう。
ただ、もうそれにかけるしかない。
「行ってきまーす。」
遠くでシノがそういうのが聞こえた。返事をする余裕はなかった。心臓が口から出てきそうだというのはこんな感じなのだろうか。
「ただ陰謀として話されただけだ。知ってるわけじゃない。何をマジになってんだ俺は。」
独り言で自分を諭す。
「いったん寝て、リラックスするか。」
こんな中いい考えなんて思い浮かぶわけがない。思い浮かんだのは夢か現実のものかもわからないハッチの話だけだ。もし仮に現実のものだとしても場所など知るわけもない。
動く気力なんかなかった。その場でうずくまるように体を丸めた。知らないところで疲れやらストレスはたまっていたのだろう。すぐに眠りについた。
30秒後の君と 曙 春呑 @NinjinDrrrr
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