はかにまいる

うつりと

堀幸

 最近、亡父が夢によく現れる。

現れる場所は、建て直す前の実家の中だっ

たり、見知らぬ屋外だったりで、会話もしているようだが、内容はよく思い出せない。

 服装は、寝間着にガウンを羽織った姿が多い。病室での姿が強く印象に残っているのだろうか。

 私に何かを伝えたいのかと思う。

 私の病気に対して頑張れなのか、たまには墓参りしに来て顔を見せろなのか、わからない。前者はまだしばらく時間がかかりそうなので申し訳ないという気持ちで謝るしかできないが、後者は今日にでもできる。

 今日は良い天気だ。

 昨日しんどいことがあり、心身疲れていたが、無心で墓石を磨いたら、少しは気が晴れるかも知れない。

 私が最期を迎えた後に入る場所。

 墓参りに行くことにした。


 立川で青梅線に乗り換えて西へと向かう。

乗客は少ない。一番端の席に座る。リアルすみっこぐらしだなあなどととぼけたことを考えていると、私がラインでヘルプを出した仲間から丁寧な返信が携帯に届く。涙が溢れそうになり目頭を押さえる。生きているとこうしてうれしいことがある。

 だからまだ死ねない。

 感謝して、ありがとうと返信する。そして、生きることは生きのびる旅なのだなあと、あらためて思う。


 墓地に最寄りの駅に着く。ちょうど駅前に送迎バスが着いたところに出くわす。手向ける花はいつも駅前の花屋で買うが、このバスが出てしまうと次は一時間後になってしまう。

花は墓地に着いたら買おう、私は送迎バスに乗り込む。

 平日なのにバスは満員だった。墓地までの道程の景色を眺めながら、コロナ禍でずっと墓参り出来ていなかったことを心の中で詫びる。

 数十分後、バスは墓地内に乗り入れ、止まる。

事務所で花を買い求め、桶に水を汲み、私の名字が刻まれた墓石を目指す。

砂利道を歩く私の足音と鳥のさえずりしか聞こえない。

 見上げると抜けるような青空にすじ雲が伸びている。


 墓石を前に、ひとまず荷を下ろす。供えていたマグカップと花立てを手に取り、水汲み場へ持って行き、洗う。新しい水で満たして戻る。

 墓石に水をかけて、たわしで磨く。

 植木を剪定し、水遣りをする。

 草をむしる。

 腕捲くりをする。

 時折米軍機が頭上を掠めるように飛んでいく。

 花を手向け、持参した束ねた線香に点火して立てる。

 手を合わせて、祈る。

 どうかお見守りください、お力添えください、と。


 返事はなかった。


 私は左手でまだ濡れている墓石を撫でて「また来ます」と一声かけ、静かに墓石を後にする。

                 終









                  

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