Me & Devil (クロスロード)

野ざらし

短編 1話完結

1998 初夏 25:10am


ライブバーの店内は拍手と歓声と

楽器の音が響いていた。


曲のエンディングを引き延ばして観客を煽り

" 乱れ弾き " と " 乱れ打ち " で

更に更に煽り、お約束の盛り上がりで

2組目の演奏ギグが終わった。


ステージの照明が消え、店内に薄暗い電球が

灯ると、熱気と煙草の煙が充満したフロアに

派手なネオンサインが ボヤッ と浮かび上がる。

カウンターはドリンクやツマミを注文する

客が絶え間なく行き来し始めた。


Gig のメンバーは ステージから

そのカウンターの椅子に移動して

余韻を楽しんでいたが

ギター弾きはエアギターをしながら

モヤついていた…


G:「んん〜〜… キマんねぇーなー…… 」


B:「そっかぁ?

  いつもと変わらない感じだったけど」


G:「んーー… 」

左指はソロを弾いている時のように

落ち着きなく動いたままだ


B:「自分の中の問題でしょ?

  ちょっとしたトコロじゃねぇの??」


D:「そーそー 笑」


G:「笑笑…うぅ〜〜〜… 」

薬指でチョーキングの仕草をしながら

顔を歪め、ため息を吐いてエアギターを

終了した。


B:「けど、そのの味付けがあると

    オォッ!てなる時あるよな…」


D:「ん〜〜…… あるな 笑」

 「マスター!」

ドラムスはグラスを持ち上げた


M:「同じの?」

と言いながらマスターはモヤついている

Gに視線を移した


M:「カッコよかったよ!

  お客さんもノッてたし、大丈夫だよ 笑」


と、そのやり取りを聞いていた常連の

おっさんが、Gの右肩に手を置いて

隣に座った


O:「ギターが上手くなりたいなら

       交差点に行くんだってよ」


D.B.G :「こ・う・さ・て・ん??!!」

カウンターの3人は、同時に身を乗り出して

おっさんを覗き込んだ

3人の声の大きさにカウンター周辺の

ガヤが一瞬止まった


D:「って、交差点??

  道路の?? コウサテン?」


O:「そ、交差点。十字路、、、

  見たことあんだろ? 笑」


topu topu topu……

グラスに酒を注いでいたマスターが

チラッとおっさんを見て ニヤリ…

topu topu…

        ・

        ・

kinn! … Zi………kasha! フゥー……

煙草に火を付けてオッサンは話し始めた


O : 「クロスロード伝説って話なんだけどさ

   …… 」

  「夜中に人が来そうにない

      交差点に行くんだってよ」

  「一人で… 」


G.B:「hum hum… 」


O:「そこでギターを弾きながら

     上手くなりたいって願う…」

 「本気で 何度も何度も願いながら

      弾き続ける」


 「 ………んで、待つ… 」 フゥ〜〜…


G :「 …? 待つって、何を? 」


O :「なにも起きなきゃ、また違う日に

  同じ場所で同じことをやる… 」

 「上手くなりたいなら

  何かが起きるまで、それを繰り返す」


D :「何かが起きるまで??」

 「…なんか、怖ぇ〜」


O :「笑…」


B :「でもさぁ、そういう話っていつも思うけ

  ど、今日はもう何も起きないって

  判断はどこですればいいのかな? 」


O :「 そりゃ、そいつの思いによるんじゃ

   ねーの?」

  「だいたい この手の話で何か起きると

     すれば、暗いうちだろ」


B :「そっか! 笑笑 」


O :「何度やっても何も起きないヤツも

   いるかもな 」

  「4弦の伝説 は聞いたことねーし」

おっさんは、からかうようにBを見た


G.D :「笑笑笑ー!」


D :「そんで、そんで?」


O :「ん?あぁ… それを繰り返してると

   ある日、突然目の前にタッパが

  3メートルぐらいある悪魔が現れる」


G :「悪魔?!」


O :「うん…」

  「悪魔はそいつのギターを取り上げると

    チューニングをやり直す」


  pin pin…bun…bin bin

     poron……b a r a r a n n…


 「チューニングが終わると

  確かめるように短いフレーズを幾つか

  弾いて」

 「ぶっきらぼうにギターを突き出して

  こう言う」


 魔:『このギターを受け取れば弾けない曲は

   無くなり、誰もが目を見張るような

   テクニックも身に着く』


O:「その声は、太いゴムチューブを

  喉に突っ込んだみたいな声で、一度聴い

  たら脳ミソに焼き付くらしいよ」


 「男は戸惑いながらも 恐る恐る手を伸ばす

  と、悪魔は突き出したギターを

  少し引き戻して、こう続ける…」


 魔:『が…代わりにお前の魂を貰う』と…

        ・

        ・


G :「ふふっ おもしれー」

zi…zi……… フゥゥ〜〜…


D :「こぇーよ 笑」


O :「ま、昔話つーか 都市伝説的な?笑」


G :「笑笑 やってみよーかなぁー?」

  「上手くなりてー!」

また、左指が動きだした


B :「けど、魂と引き換えでしょ??」

 「悪魔でしょ?」

 「断ったら殺されそー 笑」


O :「笑笑、首を横に振れば悪魔はそのギター

  を地面に置いて消えるらしいけど

  当然ギターの腕はいつもと変わらず」


  「後になって受け取らなかったのを

   後悔して、別の日に交差点に行っても

   悪魔は現れない」


 「悪魔が現れるのは一度きりだってよ」


G :「そっか…魂 持ってかれちゃうのかぁ…」

  「魂を取られたら

   どーなっちゃうんだろう??」

  「そいつは そいつで

      いられるのかなぁ??」


O :「大丈夫みたいだよ。

       しばらくの間は… 」


G.B :「し・ば・ら・く ?」


D :「……………。」


O :「実はこの話の元になった男が

   いるんだよ…」

        ・

        ・


 「その男は、ギターを受け取った」

        ・

        ・


G :「上手くなった?」


O :「うん、一夜にして 神懸かり…

   いや……悪魔懸かり的に…か……笑」


D.B.G:「笑笑ーー!確かに!」


O:「その男を知ってる者達は口々に言った」


 「どうやったら そんなにギターが上手く

  なるんだ???」って


  「訊かれる度にその男は…」


B:「神も悪魔も捉え方によっては…

  或いは……か… 」 フゥ〜〜…

おっさんの話に被ってBが独り言のように

呟いた


D:「どれくらい前の話しなんだろう?」

 「その男って幾つぐらい

      だったんですかね?」


O:「ん〜…チャックベリーより歳上だよ」

 「12〜3コ…だったかな?」


G:「て、ことは…1900………初めの頃か?」

  「70年前?いや80……だいぶ 前…」


O:「Johnny B. Goode は知ってるよな?」


 「あれは 汽車が走るテンポに合わせて

  ギターを弾いてたら、それが後に

  エイトビートと呼ばれるように

  なったって話だけど…」


D:「ぁ、聞いたこと ある… 」


O:「その男は、悪魔に魂を渡して

  デルタを完成させた…って聞いたけど

  ……」


G.B:「へぇぇ〜〜…」


D:「スゲェ」


kinn!…zi……kasha! ……フゥーー…

O:「お…そろそろ帰るかな…

  次のバンドには わりーけど、今日は

   ラストまで付き合えないな 笑」


D:「交差点の話、面白かったっス」


O:「笑笑」

 「マスター お勘定」


M:「ほーい」


O:「さっきのGig カッコよかったよ!」

椅子から立ち上がり、Gの肩を叩いた


G:「ども…笑」

照れ臭そうにペコリ


おっさんがマスターにハンドサインを送って

3人を指さすと

小さくうなずいたマスターは

徐にレジに向かった


O:「じゃ、おやすみぃーー!」

  「またねーー」


D.B.G:「おやすみなさぁーい!」


M:「おやすみなさーい

    ありがとーごさいまーす!」


マスターは カウンター越しに

おっさんが店から出るのを確認すると

3人を見て言った


  M:「 1 杯づつ奢るってさ 」

 「お前ら お気に入りみたいだよ」

        ・

  B:「え?…ホントッすか?!」

  G:「いただきま〜〜す」

  D:「ありがとーございまーす!」

        ・

   M:「オレじゃなくて

      おっさんに言えよ 笑」

  「次に会った時 お礼言っとけよ」

        ・

        ・

        ・

        ・

    クロスロード伝説 か……

        ・

   そういえば……その男って?

        ・ 

        ・ 

     誰だったんだろう……


    名前…訊かなかったな…

        ・

        ・

        ・

  M:「 来週のステージ…

    なにってもらおうかな〜 」

        ・

        ・

      topu topu…

        ・

        ・

        ・

  それと、なんて言ったんだろう…


    皆んなに訊かれた時…

        ・

        ・

        ・

        ・

    M:「 デルタにするか ! 」

        

    「ステージタイトルは… 」

        ・

        ・

        ・

        ・          

     「 Me & Devil ! ! 」

        ニヤリ…

        ・

        ・

        ・

        ・

        ・

   『 毎晩、町外れの交差点で

 気が済むまでギターを弾いてた だけさ 』

 by ロバート ジョンソン

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Me & Devil (クロスロード) 野ざらし @ramjep2008

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ