終章

 新たな法が敷かれ、精霊界には無事、春が巡ってきた。

 精霊界はもともと力関係がすべてで、富を分配する仕組みがない。これを正すために、ルミナの指導教官と、ゼミの学生たちが出入りすることになった。これにより同級生たちのルミナへの誤解は解けつつあり、彼女の交友関係は少しずつ広がり始めている。

 レイヤが孤独に進めていた研究も、うまくすれば霊力の小さい者を手助けする手段となる。カミノはいまのところ道具といえば爆弾くらいしか作れないが、いずれもっと、それこそいつかカミノをあたためてくれた緋炎石(カーマイン)のような、凍ってかたくなになった心を溶かすようなものに力を活かせたらと思う。

 そして商品化して、自らの生きる糧とするのだ。「ずいぶん図太くなりましたね」などと笑われながら、世の中の仕組みに詳しいソーヴァや、顔の広いステラにいろいろと相談しているところである。

 自由に生きることが保証されて、黄昏の国の暮らしが変わったかといえばそうでもない。

「もともと、知恵を出し合って力を合わせて生きてきたからね。社会としてはよっぽど成熟しているんだよ」

 レイヤの言い方はそっけないが、声色にはいくらか誇らしげな色が乗っていた。

「私の魔法道具が世にお披露目されるときは、あのこたちの力を借りるようだね。私なんかより余程綺麗に精巧に組み上げるに違いないよ」

 寒さに縮こまって抑え込まれていたあらゆるものが解き放たれる春。カミノたちもまた、新たに開けた可能性を前にしていくらか戸惑いつつも、ひとつひとつ自ら選んだもので暮らしを謳歌している。道を選ぶのは難しいけれど、ただ一人で歩き切る必要はないということをもう知っているから、交わったり離れたりしながら世界を広げていくのだろう。そのうち、まったく新しい道を切り拓いたりするかもしれない。

 いずれカミノとルミナでちょっとした企みを思いつくのだけれど、それはまた、別のお話。

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漕ぎいでよ、暁の娘たち 草群 鶏 @emily0420

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