自句自解
プロフィール通り「恋愛がやりたい人がやりたいからやるゲームだったらいいのに」をテーマに書いた連作ですが、影絵のように願いを描く手法は未熟な私の手に余ったように思います。いま恋愛がそうではないという苦しみや問題意識を持つ人以外には、婚活賛歌や生きるための恋愛への冷笑という真逆のメッセージが伝わりかねない。そして落選したのだろうと思っています。
つい反省から始まりましたが、歌いたいように歌ったお気に入りの作品です。せっかくなので持ち芸の自句自解、今回もやっていきますね。
はらわたに芽吹く牡丹で目を覚ます
季語:牡丹の芽 初春
ゴングです。ッカーン!
冗談はともかく、句集や歌集、あまりにも突然始まる感じがしませんか。BFCの審査員はおそらく普段小説を読む人の方が圧倒的に多い。導入は丁寧にやりたいなと思い、露骨に「はじまった」感じを出すよう努めました。
牡丹の芽を見たことがありますか? 赤くてくねって先がフサッとしてて艶めいています。では卵巣から卵子を受け取る「卵管采」という内臓は見たことがありますか? 赤くてくねって先がフサッとしてて艶めいています。
この句は恋愛の連作を始めるにあたり、女性の内臓が目を覚ました句なんです。
悲しくもあるか真っ赤なミモザの日
季語:ミモザ 初春
初手で内臓に起床いただいたので作中主体(主人公)には初潮を迎えていただきます。ミモザの日は三月八日国際女性デーの別称です。まだ季語にはなっていません。季語であるミモザは本当ならば黄色い花です。
「悲しくもあるか」は石川啄木が短歌のなかでよく使った言い回しです。「悲しい」よりも情報量が多くて重いですよね。赤飯炊かれてもなというあの日の絶妙な感じを出すにはよい言い回しかと思って採用しました。
季語:春苺 三春
いちごのあの美味しい部分、実じゃないんだぜ。
苺は初夏の季語で、春苺はハウス栽培などで出回る早熟のものです。思春期初期には春苺の方があうように思い斡旋しました。
砕かれるために盛りの蓮華園
季語:蓮華 仲春
レンゲ、俳句的には紫雲英と書くのですが、これじゃ俳人にしか読めない。ブンゲイファイトクラブはジャンル不問の戦いであり審査員の経歴も俳句以外が多いと予想されたので蓮華に書き下してあります。この連作には同じように俳句的にはカッコ悪い表現にわざと直した部分がいくつもあり、俳人に読まれるのがちょっと怖かったりします。
さてレンゲ園ですが、農村地帯出身じゃないと見たことがないかもしれません。ほとんどのレンゲ園はレンゲの共生細菌である根粒菌の働きにより土壌に窒素を増やすため植えられています。なので、盛りを過ぎれば、トラクターで生きたまま畑に鋤き込まれる運命なのです。
若い女性の魅力はなんのためにあるのでしょうか。その魅力で結婚にこぎつけ出産で心身が傷ついた人たちを見て、産後に性的な魅力がなくなったと嘲笑われるのを見て、悩んだりします。作中主体も悩んでおります。
意に沿わずヘリオトロープ咲かす胸
季語:ヘリオトロープ 晩春
俳句は難解な詩形です。なにしろ短くて説明ができないので。しかしそろそろ「作中主体が思春期を迎えて悩んでいるんだな」と気づいてもらえないと展開に困ってしまう。ということで作中主体を花にたとえる句から一度離れました。
ヘリオトロープは石鹸のような香りがする花です。俳句において季語ヘリオトロープならそれは咲いてるヘリオトロープなので「ヘリオトロープ咲かす」は「頭痛が痛い」のような意味かぶりですが、俳句に慣れていない読者をおいてけぼりにしないための句なのでオッケー!
とはいえヘリオトロープの知名度を思うとどっちにしろおいてけぼりにしてしまった気がして反省しております。ヘリオトロープはその人好きする香りから女性向け化粧品に採用されることも多いですが、予選選者には出会う機会がなかったかもしれません。
抱く蜜の芳純を知る沈丁花
季語:沈丁花 三春
今回「恋愛がゲームだったらいいのに」というテーマを歌うにあたり、作中主体が苦悶を抜け、自分の魅力に、自分の魅力で遊べることに気づき始めます。
沈丁花の香を賛美する句の多かれど、それが蜜から発されるという内省で作られたものは珍しいのではないでしょうか。女が自分の色を自分で使うと選ぶことがテーマゆえ、この連作における花は見られる客体としてより行う主体として扱われているのが特徴です。
微笑みは桜隠しか面布か
季語:桜隠し 三春
これは作中主体が恋愛対象に対して思っている句とも、作中主体の自嘲ともとらえられるように作られています。どちらでもテーマから離れないので大丈夫です。
桜隠しは桜が咲いたあと雪が降って枝につもり花を隠している様子です。面布はお葬式でご遺体の顔にかけるあの白い布のことです。微笑みで隠したものは、どっちなんでしょうね。
どこにでもいる人を辞す霞草
季語:霞草 晩春
霞草はご存知でしょうか。ブーケとかで白くて小さい花を散らかす役割を持っているあれです。通常は脇役です。脇役を辞める霞草。強いですね。自分の魅力を引き受けて自分の意思で使って生きていこうとする作中主体の決意です。
応募前の推敲を頼んだ人には「ここで婚活の連作だとわかった」と言ってもらえました。その人は若年男性でしたが、もうちょっとどうしてわかったのか聞いておけばよかったな。
自分に咲いた花に苦悶する春が終わり、次の夏の句からは作中主体が恋愛に参加し始めます。この辺の心境の変化をもうちょっと厚み持たせてもよかったかもしれません。
睦言の手を品を変え
季語:吸葛 初夏
スイカズラは俳句的には忍冬と書くのですが絶対読めないうえ花だとわかるかも怪しいので誤った書き方にしました。
つた性の華奢な植物です。やはり華奢な白い花を咲かすのですが、時間が経つにつれ黄色に変化するため、遠巻きにみると白から黄色の様々な色の花が咲いているように見えます。しかも地方によってはサルビアのように摘んで蜜を吸うそうです。相手を探るような口説き文句を示すにはぴったりの季語だなと斡旋しました。
桜桃の照りはあなたのためじゃない
季語:桜桃 仲夏
桜桃。さくらんぼのことです。さくらんぼってツヤッツヤで魅力的ですが、果たして私たちのために磨き上げたのでしょうか。果実の本来の役割を思うと、食べて種を散らしてくれる鳥のためにあるはずです。
女性が魅力的に装うのは見下されるためでも犯罪被害にあうためでもないでしょう。この連作の場合は恋愛をするためですが、自分のため、仲間と楽しむためというかたも多いですね。かなり強い言葉尻でこの連作のなかでもかなりフェミニズム気質が濃く出ている句ではないでしょうか。
季語:夾竹桃 仲夏
キョウチクトウ。鮮やかなピンクやまばゆい白の花を咲かす木で、強い毒を持つことや生命力が強いことが有名です。関東圏だと土の痩せた高速道路沿線に植えられていることが多いですね。広島では原爆で荒れ果てた土地に最初に咲き、今もシンボルツリーとなっています。
さて爪ですが、体の部位の中でもわりと目に付くところであります。女性としてはここを何色にするかで「どんな相手との恋愛を望んでいるか」の足切りができるわけです。派手な爪を避けて恋愛対象から外したつもりでも、それすら相手の手の内かもしれない。
メタ・ゲームとはゲーマー用語でゲーム前ゲームといったニュアンスです。トレーディングカードゲームで使われることが多いでしょうか。たとえば「先月発売の拡張パックで火属性のレアカードが出たから火デッキで大会に出る人が増えるだろうし、有利な水属性のデッキを持ち込もう」のような戦略立てとかがメタゲームですね。
ここから先、夏の句は恋愛をゲームとして謳歌する章で、賭け事の用語が増えてきます。あえてゲームという字面を最初に出すことで読者に雰囲気をつかんでいただく意図です。
ガーベラを束ねて贈る含み損
季語:ガーベラ 仲夏
ガーベラは名前だけではピンとこないかもしれませんが、すごく花らしい花なのでググると「花じゃん」ってなると思います。
束ねたガーベラはそれそのままと取っても構わず、愛想笑いやデート代の比喩と見てくださっても嬉しいです。
含み損は株用語で、まだ売ってない株だけど現時点では赤字のやつ、くらいの意味でしょうか。実際売りにかけるまでお金が減ることはなく、将来株価が上がれば含み益に転じます。本作では恋愛はゲームで駆け引きなんですよ、と直接的に表現した句です。
単騎待ち眺むばかりの
季語:薄荷刈 仲夏
単騎待ちは麻雀用語です。ペアになるたった一種類の牌を待ってあがりを狙います。やり方によっては三種類四種類の牌を待つようにもできるので、どちらかというと割りが悪い待ち方ではあります。カップルになる相手を割りが悪い待ち方で高望みしている、という比喩のつもりで書きました。
薄荷はミントのことです。えらい生命力がつよくてモソモソ増えます。婚活パーティーとかで有象無象がカップル成立していくのを高望みのまま眺めているイメージですね。
沙羅落とす熟知のうえの遊び駒
季語:沙羅 晩夏
「沙羅双樹の花の色 盛者必衰の理をあらわす」平家物語の著名な序文ですね。この沙羅は古語なので別な木のことなのですが、おそらく読者は真っ先にこちらを連想するだろうとあえて間違った採用の仕方をしています。その花はそのうち落ちるのであえて今落とす。いいかげん作中主体もゲームな婚活に慣れてきたようですね。
朝顔の咲くは空気を掴むため
季語:朝顔 初秋
今回は恋愛をゲームとして謳歌するテーマですので、朝顔を儚くしぼむ花としては歌いません。うるせえ〜〜〜咲くのがゴールと思うなよ〜〜〜〜という感じです。ふわっと空気を掴み取るように萎む朝顔はたった半日の儚い開花ながらちゃんと固い実を結ぶわけです。
ここから季節が秋になっています。あたりが枯野になる分、咲き残った花がより鮮やかに映える季節です。恋愛なんてやりたい人だけ好きでやっている世界なんだよ、という本作の主張が強まっていきます。
初菊を靴で装う総流し
季語:初菊 三秋
初菊は文字通りその年に初めて咲いた菊です。この作中主体は恋愛にいいかげん慣れてきたので全然初菊ではありません。でも清純好みの男性がターゲットなら装うこともするでしょう。たとえば踵の低い靴を履いて、おしゃれに慣れていない風を演出するとか。
総流しは競馬用語です。競馬は3位までにどの馬が入るかで賭けます。本命を一頭決め、本命は絶対入賞する前提で他のすべての組み合わせを買う絨毯爆撃的な買い方が総流しになります。そんな婚活パーティーもあるでしょう。
やりたくてやる賭博なり
季語:零れ萩 初秋
秋の七草の中でも特に大振りの姿となり、しなやかな枝に紅色の花を咲かせ、枯野を背に華やかに散る萩。その威風堂々たる様にこの連作のテーマをすべて載せました。次の桔梗の句がタイトルコールなわけですが、本当に重いのはこちらなので、桔梗の直前より直後においた方がよかったかもしれません。
桔梗紋つやめく髪は謀
季語:桔梗 初秋
桔梗の家紋は女系分家がもらうことが多く、桔梗紋の戦国武将で有名なのは明智光秀です。謀のイメージにはぴったりかと。桔梗の紫とよく手入れされた髪の黒もひびきあわせました。
この連作でこの句が最初にできました。ここから膨らませた全てが連作を構成しています。
寝ぼけた彼氏に見せたら「そ……それがし…?」と言われたのが機でタイトルはカタカナになったという裏話があります。
本当の名で呼ばれたい
季語:女郎花 初秋
プライバシーへの配慮からハンドルネームで参加できる婚活も増えてきました。だったら好意のひとつとして「そろそろ本当の名前を教えたいな」があるのではないかと思って作った句です。
女郎花は秋の七草のひとつで、背が高く月光色で上を向いて咲くので前向きなイメージがあります。また、名前の当て字となっている「女郎」は性風俗従事者のことで、彼女らが仕事用の偽名を使うのは有名な話かと思います。
月見酒あなたにするかこいこいか
季語:月見酒 三秋
冬の句は寒寒した季節にあうよう作中主体にもちょっと迷走していただこうと思い、その準備として季語を花から離しました。
こいこいは花札の用語で、ゲーム続行のかけ声です。月見酒が現代に考案された初心者向けのあがり役であることを考えると、作中主体が何に迷っているかうっすら見えてくるかと。
熊笹を剥いた芳香薬喰い
季語:薬食い 三冬
高い肉って熊笹に包まれててめっちゃいい匂いしますよね。薬食いは寒さの厳しい時期に備えて肉を食べる、まだ肉食が普通じゃなかった頃の風習です。ですが恋愛の連作に落とすとあー男食ってるなーというのが、字面からうっすら伝わるかと思います。
兎狩り愛を積分してルビー
季語:兎狩り 三冬
狩。作中主体の恋愛がだいぶ力技になってきていますね。ゲームは力みすぎると勝てないものです。愛の形を贈り物で量ろうと数学用語である「積分」という言葉を使っていますが、この連作のなかでの異質さからうまくいかないであろう感じが出ているかなと思います。
押せや押せ婚期逃すぞ
季語:寒鴉 晩冬
なんで冬の都会って黒くなっちゃうんでしょうね。冬に限らず群衆がモノトーンになりがちではありますが、厚着をする季節は尚更に見えます。それが寒さに餌探しを焦るカラスのように見えますし、作中主体も満員電車で焦っているイメージです。
季語:凍土 三冬
最初は「霜枯れを踏んで私が先に咲く」でした。でもこれだと花を女の比喩に使っていた関係上、まるで誰かを蹴落としたみたいになってしまいます。自分の内面から来る課題をクリアしたことを示すなら冬の凍った土の方がいいかなと差し替えた次第です。ここからまた花の季語が復活してきます。
季語:冬薔薇 三冬
通常バラの花期は春か秋で、冬に咲くことはあまりありません。冷たい景色のなかで余力を振り絞るように咲いたバラはきっと挑発的な美しさでしょう。
「手折らば手折れ」はシューベルトの楽曲「のばら」の日本語訳にあてられた歌詞の一部で、歌の中では「思い出ぐさに君を刺さん」が続きます。しかしこの作中主体は「棘もなし」と言い切っておりますので、過剰に力んだゲーム精神で人を傷つけるのをやめたと読めるよう書きました。
伏せた目に技あり宵の寒椿
季語:寒椿 三冬
冬に咲く伏せがちで小ぶりな椿の品種としては「侘助」が有名で季語にもなっていますが、マイナーなうえ同世代の人たちには某漫画の「故に侘助」がいやでも連想されてしまいそうなので避けました。
作中主体が自分らしいゲームペースを取り戻した感じの作風になっています。
季語:蝋梅 晩冬
蝋梅の花自体は薄い黄色い花びらでできているので存在感こそさほど強くはありません。でもその儚さと裏腹に、忘れ得ぬような非常に強い香を持ちます。プロポーズされる間際の一瞬の空気を、蝋梅の薄さと香で連想させました。
代わりなどいないと叫べ
季語:三十三才 三冬
三十三才のどこが季語やねん、と思われるかもしれません。ミソサザイという鳥にこの字が当てられています。とても小さな鳥なのですが、繁殖の時期は透明で高くかなり大きな声で鳴きます。くちばしを目一杯開くすがたは絶唱という言葉がにあうくらいです。
プロポーズの俳句を甘口にしすぎないためにどうすればいいかなと思いましたが、ミソサザイの囀りに拠り所を見出しました。当て字がいかにも婚期という年齢なのもあり。
季語:寒卵 晩冬
直前に鳥の季語を使ったので応答句として卵を採用しました。結婚をしようと決意することで今までちょっと距離を取って冷静でいた部分のたがが外れる、みたいなところあると思います。
エンゲージリングさわがし
季語:初明り 新年
婚約指輪には通常大きめのダイヤモンドが設置されています。ダイヤモンドのさわがしいほどの煌めきと初日の出の光を呼応させました。ここで季節が新年となり、作中主体も今までと違う人生が始まったのを自覚しています。
箱庭をいかに出でたか野辺のばら
季語:初夏
この句の前に大きな改行があります。
俳句は慣例として季節順に並べるのですが、直前の句からこの句の間で春が丸ごとすっぽぬけています。エンゲージリングを貰ってからの時間の経過を季語のパスで表現し、季語を知らない人でも体感できるよう改行を多めに取ったつもりです。
『合コンの社会学(北村文、 阿部真大)』という本があります。合コンという恋愛市場が非常にニッチな場で、合コンに適応すると結婚に繋がらないという皮肉な分析がされています。2007年の古い本ですが、婚活に最適化して結婚につながるかというと……という問題意識を持たないとコケるのは現代にも通じるものかと。婚活クイーンの知人から新婦への言葉という雰囲気で作った句で、応答が次の句になります。
あがるには数え役満ゆずの花
季語:初夏
「数え役満」は麻雀用語です。牌を捨てたり取ったりで役を作って競う麻雀。役満はあがり手のランクの名前で、最上位のもののひとつです。役満であがるにはすごく難しい手を作る他にも裏技のようなものがあって、比較的簡単な手を山ほど組み合わせて役満相当にしてしまう、それが数え役満と呼ばれるあがりかたです。
恋愛市場における魅力って「年収一千万」「お嬢様学校出身」のような役満級のものばかり目につきますが、自分の小さな魅力を重ねて重ねて結婚にこぎつけたんだよ、という作中主体からの応答となります。枝先に重い蕾をつけるバラに対し、ゆずは小さな白い花が茎の途中にびっしり咲きます。
晴の日に白い金魚へ変わりゆく
季語:金魚 三夏
ウェディングドレスに着替えたという句なのですが、ここだけ読んだだけでは曖昧で、次の句とその次の句を読むとはっきりしてくるような仕掛けになっています。意味が曖昧ながら正常な光のイメージを伴う字面が結婚式当日の花嫁の夢みがちなほどの幸福感と重なるように順番を変えました。
夏の蝶集う浜辺の式次第
季語:夏の蝶 三夏
教会や神社の結婚式だと暗めのフォーマルウェアで固めることもありますが、ビーチウェディングをやるような人前式だと写真映えを意識してむしろ明るい色をドレスコードにしたりします。遠目に見ればアゲハ蝶などの色鮮やかな夏の蝶が集まってくるかのように見えることでしょう。恋愛や結婚は通過儀礼ではなくやりたい人だけやるもの、という世界観にはこういう式の方があってるように思って作りました。
潮風やベールの下に夏の月
季語:夏の月 三夏
ただ「月」と書いた場合は秋の季語になります。爛々と輝く秋の月と違い、夏の月には静けさのイメージが伴います。ベールの下を意識することで誓いのキス直前の静謐な空気感を出してみました。
水盆に手持ち花火の沈む音
季語:花火 初秋
季節が再び秋に戻ります。直前の結婚式の雰囲気と、加熱する恋愛ゲームの終焉を表現するため花火を鎮火しました。じゅっ。
マンションに接線を引く流れ星
季語:流れ星 三秋
結婚後の生活になったことを少しずつ句で補強していきます。自分が帰る部屋を見上げたら触れるように流れ星が通った、という情景です。慣れちゃうともう自分の部屋見上げたりしないと思うので、ちょっと初々しさを出しております。
しかし彼女はもう恋愛ゲームをあがったので、賭けや計算をする必要はもうありません。なのに「接線」という数学用語をつかってしまったのは少し失敗したかなと思っています。
プラチナの色はやさしさ律の風
季語:律の風 三秋
結婚指輪はプラチナで作られることが多いです。穏やかな暮らしを演出するのに、硬くサビたり傷がつきにくいプラチナと、その白金色を優しく思う作中主体の主観と、秋に吹く涼しく穏やかな風を取り合わせました。
季語:酔芙蓉 初秋
芙蓉はハイビスカスに似た華やかな花を咲かせます。そのなかでも酔芙蓉は咲いている間にだんだんと色を変えるのが特徴です。咲いた直後も枯れかけの頃もきれいです。夫となった人との穏やかな生活と肯定に合わせるにはよい季語かなと思い斡旋しました。
この句に限らず、この連作では変化の肯定がサブテーマとなっています。散ってゆくよ儚くて美しいね、じゃなくて、花びら落としたガクもかわいーじゃねーかみたいな、女性を性的最盛期だけで測ることへの反抗としてのサブテーマです。
菜種蒔くいつか子犬を飼いましょう
季語:菜種蒔く 晩秋
文字通りアブラナの種を蒔くような季語ですが、子犬を飼うための支度とあまりに意味が近すぎてよくなかったように思います。俳句において季語と情景の意味が近すぎるのは減点要素となります。その慣習への「なんで?」という気持ちはなくもないですが……そのうちわかるのかな?
子供を育てることだけが家族のあるべき姿ではないこと、だいぶ広まってきたように思いますが、これからも家族の形や夢は自由であれという願いにて連作を締めました。
ひととおり解説を作ってみてもやはり説明不足によるテーマの誤解させやすさが目についてしまいます。フィナーレをここにするより結婚式かプロポーズまでにしてむしろ描写を厚くした方がよかったかなとか、いろいろと思うところもあります。
とはいえ新しい作風に挑戦してものすごく地力が高まったし楽しかったですね。
読んでくださりありがとうございました!
俳句連作ハカリゴト 千住 @Senju
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