俳句連作ハカリゴト

ここにない未来

はらわたに芽吹く牡丹で目を覚ます

悲しくもあるか真っ赤なミモザの日

花托（かたく）のみ愛でられ怒る春苺

砕かれるために盛りの蓮華園

意に沿わずヘリオトロープ咲かす胸

抱く蜜の芳純を知る沈丁花

微笑みは桜隠しか面布か

どこにでもいる人を辞す霞草

睦言の手を品を変え吸葛（すいかずら）

桜桃の照りはあなたのためじゃない

夾竹桃（きょうちくとう）爪を彩るメタ・ゲーム

ガーベラを束ねて贈る含み損

単騎待ち眺むばかりの薄荷刈（はっかがり）

沙羅落とす熟知のうえの遊び駒

朝顔の咲くは空気を掴むため

初菊を靴で装う総流し

やりたくてやる賭博なり零（こぼ）れ萩（はぎ）

桔梗紋つやめく髪は謀

本当の名で呼ばれたい女郎花（おみなえし）

月見酒あなたにするかこいこいか

熊笹を剥いた芳香薬喰い

兎狩り愛を積分してルビー

押せや押せ婚期逃すぞ寒鴉（かんがらす）

凍土（いてつち）を割って私が先に咲く

冬薔薇（ふゆそうび）手折らば手折れ棘もなし

伏せた目に技あり宵の寒椿

蝋梅（ろうばい）の薄さ告白二秒前

代わりなどいないと叫べ三十三才（みそさざい）

寒卵（かんたまご）やがて瞳に宿る熱

エンゲージリングさわがし初明（はつあか）り

箱庭をいかに出でたか野辺のばら

あがるには数え役満ゆずの花

晴の日に白い金魚へ変わりゆく

夏の蝶集う浜辺の式次第

潮風やベールの下に夏の月

水盆に手持ち花火の沈む音

マンションに接線を引く流れ星

プラチナの色はやさしさ律の風

酔芙蓉（すいふよう）出会った日よりきれいだよ

菜種蒔くいつか子犬を飼いましょう