旅立ちへ(2)

 あの一件から数日後、ラズリの誕生日が迫るナイドとフーエイはパーティの準備に追われていた。誕生日と言っても小規模な物くらいだが3人にとっては欠かせない行事である。フーエイとナイドは城より離れた野生の果樹園に足を運んで誕生日のために果物を採取していた。

「♪~」

(気にしてはないようだが、何があったかを聞かないといけないな)

「ナイド、昨日のことなんだが一体何を見たんだ?」


「何を見たか…か。フード被っていたからわからないよ」

「そうか、ならいい。次に襲われた時は俺を呼べばいい」


 了承を得たナイドは再び果物の採取に向かう。フーエイは回収した果物を盛り付け用に装備された剣で手際よくカットしてドラム缶並はあるサイズに入れた後、白いシロップをひたひたになるくらいまで入れて封をする工程をしていた。


「ふぅ~終わった。誕生日会って言っても盛大に祝うわけでもないけど、派手にやりたいとは思っているんだ」

「そうか、今日は桃が取れたからパイでも焼こうかな…俺は先に戻っているから休憩が終わり次第城に合流しろよ」


 フーエイが荷車に桃が入ったドラム缶を限界まで詰めて機械仕掛けの仕組で動いているのか関節の隙間から蒸気がプシュッ、プシュッとリズムよく軽快に荷車を引いていった。その場に残されたナイドは疲れもあってか草原に倒れこむとやがて眠りに落ち夢を見た。そう、あの扉がある


 無機質な空間には緑の人は居ない。代わりに小さな女の子が積み木やぬいぐるみを使ったおもちゃで遊んでいた。そっと近寄るナイド、女の子はナイドに気づくと振り向き顔を見せた。どうだろうか、昔住んでいたと言われていた機械化されていない人間の女の子がこちらを見つめていた。


「あなたは誰?怖くない人なの?」

「僕はどうなんだろう?怖い人なのかもしれない、この体を見たら怖がる人もいるだろうし僕にもわからない」

「私は怖くはないよ。だってあなたは何かに怯えているから自信が持てない、と思っているの。」


 少女の的確過ぎる言葉に俺は答えられなかった。というよりも確かにあのフードを被った敵との戦いでとも言っていた、それは俺自身のことなのか?また俺じゃなくてフーエイとラズリのことを言っているのかどちらだろうか。


 見知らぬ少女と積み木を積み重ねてお城を作る遊びをしていた頃、積み木に飾り付けをするために折り紙をハサミですいすい切って様々な形に切っていると少女は誤って指を怪我してしまった。痛がる少女を見たナイドは指を手のひらで包むように心地よい蒸気の力で優しく治療すると血が出ていた傷が治っていた。少女がポケットから出したのは1枚の白い絆創膏を上手く貼れないのだろうか手こずってる姿を見かねたナイドは代わりに貼ろうとするが断られてしまった…


 少女と遊んでからどれだけの時間が経ったのだろうか――夢だと分かっていても楽しそうにしている少女と遊んで心が穏やかになる頃、少女の名を聞いていなかったと思い出し名を聞いた。少女の名はまだ無い。

「そうなんだ、僕はナイドっていうんだ」

「ナイドはお友達はいるの?」

「うん、フーエイとラズリが友達。あとは居ないかな」

 ナイドに友達がいることを確認すると少女は立ち上がり、古びた本を取り出して彼に見せた。その本はナイドでも知らない世界がクレヨンで書いた世界が記されている。小さな小人が住む世界に、海の底にある煌びやかな町、和風チックな時代劇風の世界などが描かれていた。ナイドが次のページへ次のページへとパラパラ捲ると1つだけ気になる場面がある、ダイヤモンドで出来たお城を見る3人の英雄とタイトルが決められていたが内容の背景が真っ黒に塗りつぶされている。


「なんだ、これ…」

 黒いページは1枚だけじゃない。黒く塗りつぶされた背景に赤いクレヨンで人が何かを殺している描写を描いているページ、何かの実験室に入れられて拷問を受けている人らしき何かが描かれていた。


「これはね、世界が今になる前に起きた世界なの。悲しいことが起こったの、あなたの…こ…に関係す…」


 夢の中で灯りが消えたと思ったら額に雨粒のようなものが当たる感覚が走った。目を開くとなぜか天気は曇り空、あんなに晴れていたのにどうしたものか――小雨が体に染み渡る感覚を覚えながら上体を起こしてみると城の方ではどす黒い雲が城の上空に漂っているではないか?!


「一体何が起こっているんだ?!それに煙が上がって…行かなきゃ――」


ナイドは城が襲撃されている状況を確かめるため残像を残す勢いで城に向かい門をぶち破ると壁に打ちつけられるフーエイの姿とあのフードを被った謎の襲撃者であった。

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