3ヶ月前のタイムリープ1 荷物持ちとしての再起・下

 どんどん!


 不意に扉をノックする音にびっくりしてしまう。ドアの向こうから怒鳴り声が飛んできた。


「おい、荷物持ちのルーブルってのはアンタだろ?頼む開けてくれ!さっきギルドからフェオールの遺品を引き取ったって聞いたんだ!!」


 フェオールの遺品?俺がフェオールさんの遺品を持ち出したから取り返しに来たのか?という事はフェオールさんの知り合いかも。


 このままだと宿屋の家主から「騒ぐな」とまたクレームがきてしまう。ともかくドアを開けて話を聞こう。


「俺がルーブルですけど・・・アンタは?」


 ドアの前に立っていた男は服装が小汚く髪はボサボサで血走った目の目元には隈ができていておまけに酒臭いときている。つい今しがたまで飲んでいたようだ。

 しかし俺が応対すると先ほどまでとは打って変わって大人しくなっている。


「ぁ・・・すまん、いきなりやってきて・・・俺はザヴァス、ラ・セイマスのリーダー・・・だった男だ」


 ラ・セイマス、フェオールさんのパーティー名だ。そしてそのリーダー・・・確かブレベス村でフェオールさんへ料理を持っていくように俺に頼んできた人だったな。


「実はアンタが今日引き取ったフェオールの遺品を・・・あ?アンタとはどっかで会ったような?」

「そうです、1年前にブレベス村で・・・」

「ブレベス・・・そうだ、ブレベス村で宴会やってた時にフェオールに料理を運ぶように頼んだ兄ちゃんだ!そうか、アンタも荷物持ちになったのか・・・どうだ?上手くやっていけているか??」

「まぁそれなりに・・・」


 今までの焦りまくっていた態度が一気に穏やかになっている。血はつながらず同じパーティーでもないのになぜか久しぶりに田舎の親族に会ったような気分だ。

 狭い部屋だけど立ち話も何なので入ってもらう。


「実は酒飲んでフラフラしていたらギルド職員のヤツから『フェオールの遺品を荷物持ちのルーブルに任せた』って聞いてな、それであいつの遺品は・・・」

「これです、中身を開けてしまったのは申し訳ない」


 遺品を渡すとザヴァスさんの顔が安心したものになった。


 聞くところによるとフェオールさんは町外れの洞窟にあるダンジョン攻略で重傷だった仲間の危ないところを身体を張って助けたとか。


 リーダーのザヴァスさんの判断でダンジョンを脱出し仲間の方は命を取り留める事ができたけど、フェオールさん自身は仲間達が気づかない間にポイズンスパイダーの毒を受けていたらしく手当をする頃にはすでに事切れていたらしい。


 フェオールさんの死後、ザヴァスさんはリーダーとしての責任を感じてラ・セイマスを解散し毎日飲んだくれていたそうな。なのでフェオールさんの遺品があったことに気づかなかったらしい。


 決してフェオールさんの事を荷物持ちだからって軽んじていた訳じゃなかったんだな。むしろ手当が出来ないまま死んでしまったフェオールさんに対して何も出来なかった思いを引きずったまま酒浸りになっていたのか。


 荷物持ちとバカにされ4回も命を狙われ続けた俺とは違い、フェオールさんは仲間想いなメンバーに恵まれていたようだ。羨ましいな。


「せっかく引き取ってもらって悪ぃけどこれは全部俺に譲ってくれねぇか?飲み代に使い切っちまって持ち合わせがあんまり無ぇけど金は払わせてもらうから」

「いえ・・・金は要りません、それより・・・」


◇◇◇


 クトファの南西にある墓地。あまり大きくない墓にフェオールさんは眠っている。

 墓石に酒をかけてから俺とザヴァスさんが手を合わせる。

 彼の冥福を祈った後ザヴァスさんが語り掛けてきた。


「ありがとうルーブル、アンタがフェオールの遺品を引き取ってくれなかったら職員のヤツに勝手に廃棄されていたかも知れねぇ」

「俺の方こそフェオールさんの墓参りをさせてもらって感謝ですよ」


 その後ごみ捨て場に行きフェオールさんの遺品を焼却する。備品の中には使える物もあったけどザヴァスさん曰く「遺品もアイツの一部だ、ちゃんと死なせてやりてぇ」そうだ。なので勿体ないけどフェオールさんの日記も入れておいた。


 遺品が燃え尽きた頃にはザヴァスさんの表情が穏やかになっていた。自分の手でフェオールさんの遺品を処分した事で気持ちの整理がついたのだろうか。


「全部終わったな・・・これで吹っ切る事ができそうだ、そろそろ冒険者活動再開といくかぁ!ギルドやその辺の店に酒代をツケてもらってるからな、どうだ?ラ・セイマスは解散しちまったから大きなクエストにゃ参加できねぇけど俺と一緒にパーティー組まねぇか?」

「悪いけど止めておきます、俺はまだ未熟だからクエストやる前にフェオールさんに教えてもらった事をもう少し消化してみたいんです」


 前回見逃したフェオールさんの日記に書かれていた失敗談は焼却した今でも記憶に残っている、あれを元に荷物持ちとして再学習しておきたい。これからのクエストで失敗しないためにも。


「ははは、アイツと一緒で真面目なヤツだなぁ、まぁ無理には誘えねぇけど・・・いつかは一緒にクエストに行こうや!じゃあなルーブル!」


 ザヴァスさんはそう言って振り返る事無く去って行った。ここに来るまでの時とは違いその足取りは軽い。


 俺も負けてはいられない。志半ばで倒れたフェオールさんの遺志を受け継ぎ、荷物持ちとして一人前となって・・・今度こそビーストハートとの因縁を断ち切ってやる!


<終>

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決死のタイムリープ naimed @naimed

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