3ヶ月前のタイムリープ1 荷物持ちとしての再起・上
「ぁぐ!・・・はぁはぁ、ここは・・・」
四回目のタイムスリップに成功した俺がいたのは3ヶ月前のクトファの町の宿屋の一室だった。
「うるさいよ!いくら客だからって部屋ン中で騒いでいいワケじゃないからね!」
外から女性の怒鳴り声が聞こえる、宿屋の女将さんすなわち家主だ。泊っている客にでも容赦なく文句言ってくる豪傑だ。
部屋の中のカレンダーの日付を確認すると・・・俺が洞窟で初めて殺されかけてから3カ月前にタイムスリップしたようだ。と言う事はまだビーストハートに参入していない事になる。
よし、ギルドに行って確認してこよう。
「パーティー・ビーストハートはまだ帰ってませんよ?はぁ・・・エルカートさん、早く帰ってこないかなぁ?」
ギルドの受付嬢に聞くとエルカート率いるビーストハートはやはり隣町のザルクにて活躍しているとの事。今から一ヶ月後に帰ってくる予定だ。この間に自立できるよう力を付けておかないと!とは言えハズレ属性の俺に何が出来るんだろうか?
そんな時、部屋の隅で作業しているギルド職員のつぶやきが聞こえてくる・・・。
「・・・はぁ、遺品整理終了・・・つってもコレだけは片付かねぇな、荷物持ちのフェオールってヤツの私物だっけか?」
職員のボヤいた名前を聞いて思い出す・・・そうだ、ブレベス村で俺に荷物持ちの事を教えてくれた人だ!
そう、丁度この時ベテランパーティー「ラ・セイマス」で活動していたフェオールさんはクエスト中に事故で命を落としたんだった。
初めて聞いた時はショックでクエストに行く事も怖くなりしばらくは町をブラついて過ごしていたっけ、我ながら恥ずかしい過去だ。
それにしてもフェオールさんの遺品なんてあったんだな。整理ができていないという事は彼には家族親類がいないという事か。ラ・セイマスのメンバーも遺品を引き取ってはくれなかったようだ。所詮は荷物持ちだから遺品までは面倒みてくれないのか。
ともあれ俺に荷物持ちとしての道を教えてくれた人だ。後輩として親類の代わりに遺品を処分させてもらってもバチは当たらないだろう。
作業している職員に声をかける。
「すまない、俺はフェオールさんの知り合いなんだけど遺品を見せてもらえないか?」
「え?マジか??そういやアンタも荷物持ちだったな・・・なら任せても問題はなさそうだ・・・見るどころか是非持って帰ってくれ!金目の物がないし受け取り人がいないから処分に困ってたんだ!!」
ギルド職員はデカいリュックサックを俺に手渡す。重い・・・一体何が入ってるんだ??
部屋にもどってフェオールさんのリュックサックを下ろして合掌する。到頭「どこかの町で会えるのを楽しみにしているよ」という約束は果たせなかったのが残念だ。
荷物の中身を物色する・・・さすがに荷物持ちだ。ポーションの空き瓶やテントに携帯食料、食器なんかが入っていた。確かに金になるものは見当たらない。
ギルド職員の話によるとフェオールさんの借りていた宿の主人が彼の遺品をまとめてこのデカいリュックサックに詰めて寄越してきたそうな。
クエスト中での事故で命を失った場合その身柄はギルド預かりになるらしく、亡くなった冒険者に家族や親類のいない場合は遺品などの処分もギルド預かりになるのだとか。
ふと視線を外すと一冊のノートが入っていた。その表紙は随分傷んでいる。これ以上痛めないよう丁寧に表紙をめくると手書きの文章が飛び込んでくる。おそらくこれはフェオールさんの日記という事か。
すでに亡くなった人間とは言えプライベートをのぞいているようであまりいい気分はしない。適当に読み飛ばしつつパラパラとページをめくっていく。
すると次のような題名の文字が飛び込んできた。
『クエスト中の失敗談、これ読んで次はしくじらないようにしよう!』
察するにクエスト中のミスを書き留めたものか。フェオールさんはベテランパーティーの一員だったけど彼でも失敗することなんてあるんだな。少し目を通してみるか。
『自前ポーションで失敗!薬草をたくさん入れりゃイイってモンじゃない、仲間達からはゲロマズポーションと言われてしまったよ。水との割合に注意して!』
なるほど、治癒効果を高めるように薬草の数を割り増すとこうなるのか。俺もポーション作成術について再確認しておこう。
『スキルを荷物に掛けて失敗!僕の風属性で荷物を持ち上げればクエスト中も楽だろうと試していたら仲間達が“自分達にも掛けてくれ”と頼み込んできた。
気前よくスキルを掛けたら僕を含めて合計5人分の荷物を制御しきれず向こうの彼方に飛んで行ってしまい、仲間達からは罵詈雑言を浴びせられる事になった。重量軽減のスキルの使用は何と言われようとも自分専用にしておくべき』
フェオールさんは風属性だったのか。それでも荷物持ちだったのは戦闘には自信がなかったためだろうか。重量軽減のスキルが使えるなんてハズレ属性を持つ俺からすれば羨ましい限りだけど。
『戦闘中のアイテム受け渡しで失敗!モンスターと戦ってる時にもポーションを渡さなきゃならない時ってあるけど、戦闘で離れている相手には渡しづらい。そこで風スキルを使ってコントロールして遠くの仲間に渡してみると結構上手く渡せた!これを“ムーヴメントエリア”と名付けよう!
成功出来て嬉しくなった僕は持っているアイテムを何時でも渡せるように全部出していたら何個か無くしてしまった!リーダーからは大目玉だったよ、出したアイテムはちゃんと管理しておこう!』
この文章を見て思い出す。そうあの3回目のサンドワーム戦・・・あの時はメンバー達を密集させた陣形だったからアイテムの受け渡しがスムーズに出来た。
でも戦闘中ではメンバーがそれぞれの敵を受け持つからバラバラになる事が多い。そんな時にはスキルの使用で補う事が必要か、ハズレ属性の俺には到底出来ない話
・・・じゃない??俺のスキルは念属性、スキルは小さい物を半径1メートル以内で自在に操る「フローティングエリア」だ・・・これってアイテムの受け渡しに使える手段じゃないのか!?
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