ミッシングリンク -番外編-

第0話 荷物持ちを目指して



 ブレベス村の外れにある空き地。鬼力を集中する・・・やはり何も起こらない。代わりに落ちている小石に鬼力をこめると動き出す。手で触れてもないのに。


「はぁぁ・・・火も電も起きない、土も水も光も出てこないし風すら吹かない・・・やっぱり念属性か」


 一体何度目の絶望だろう。モンスターを狩って生計を立てる冒険者に憧れていたのに、自分の目覚めた属性が一番使えない念属性だと知ってから。


 念属性というのは人体のエネルギーである鬼力を扱う七鬼学セプテムの中で最も扱いづらい属性だと言われている。それもそのハズ、他の6つの属性-光・電・火・風・水・土-は読んで字のごとくそれぞれの自然現象や物質を操るものだという事はよく分かる。


 だったら「念」って何なんだ?出来る事と言えば小さい物を半径1メートルの範囲で自由に動かすだけで人間や生物には効果がない。つまりモンスターを狩る事も出来ない役にも立たないスキルだ。



「そう、あんまり気を落とさないでねルーブル」


 属性が判明した時に幼馴染のセレから言われた言葉。その安心しきったような表情が今も忘れられない。きっと俺に元気を出してもらいたくて無理にでもあんな笑顔を見せてくれたんだろう。彼女のためにも腐ってるヒマなんてないのに。


 あれ以来俺の前に姿を見せなくなったセレは冒険者になるべく近くの森で弓の修行をしているようだ。近所の人たちからそんな噂を聞く度に焦りがでてくる。


 そんな俺は再度村人に頼み込んでスキルについて書かれている本を熟読する。しかし片田舎の村では蔵書の数も少なく、分かった事と言えば「正体不明の念属性について詳しく書かれている書籍は存在しない」という事実だった。



「みんな、今までお世話になりました!私、クトファの町に行ってくる!」


 そうこうしている内にセレがここブレベス村から旅立つ日が来た。ここから離れたクトファの町に行きいよいよ冒険者として活動するらしい。


 村人総出で見送る中、俺はセレに声を掛けようとしたが彼女は俺に顔を合わせようとせず足早に村の門へと向かってしまった。


 小さい頃は結婚の約束までしていた彼女がどうして・・・いや、未だ属性の事で吹っ切れない俺にどう声を掛けて良いのかわからなかったんだ。晴れ晴れしく門出をするセレに気を使わせている自分が腹立たしく思えてくる。


 俺は・・・とうとう冒険者にはなれなかったか。



◇◇◇



 数週間後、ブレベスの村に5人の冒険者がやってきた。なんでも旅の途中で一晩村に滞在するとの事だった。そのパーティー「ラ・セイマス」はどうやら凄腕のベテランらしく村長に渡した宿泊費用も破格だったようで、村をあげて歓迎する事になった。


「いままで倒したモンスターで手強かったヤツぅ?そうだな・・・」

「やっぱアレでしょアレ!ポイズントードとか!一匹一ぴきは弱っちぃけど大群でくるから面倒だったよねぇ?」

「けっ!あんなカエルモドキに何ビビってやがんだ、俺ならそんなザコども」

「一番まっ先に毒喰らっておだぶつだったよなーア・ン・タ・わ!!」

「「「「だーはっはっはっ!!」」」」


 酒を酌み交わすラ・セイマスのパーティーと村人達。村の同年代のヤツラは冒険談を語っている冒険者4人に釘付けになって話を聞いている。娯楽のない片田舎の上に冒険者の経験談は自分がモンスター討伐をする時に大いに役立つからだ。


 俺もまともな属性だったらあの中に入って話を聞いていただろう。しかし戦闘の役に立たない属性の俺が話を聞いたところで冒険者になれるワケでもない。なので離れた場所から眺めているだけだ。


 あれ?そういえばこのパーティーは5人だったような・・・一人足りない?

 そんな事を考えているとラ・セイマスのリーダーっぽい人から声を掛けられる。


「おぅそこの兄ちゃん!悪いが頼まれてくれねぇか?」

「はい?」

「この料理一式をフェオール・・・仲間のトコに持ってってやってくれ、俺らの泊る部屋っつったら分かるだろ?」

「・・・わかりました」

「悪ぃな、俺らはこの場を離れられねぇんだ・・・頼んだぜ!」


 再び賑やかになる一座。俺は手渡された料理を運びに行く。




 村長の家の隣にある空き家。正確には村に来た客人を滞在させる部屋で他の村人の家よりも頑丈に作られている。


 俺は分厚い扉をノックしてから入る。


「すみません、リーダーさんから頼まれて料理持ってきました」

「ああ、ありがとう!ちょうど腹がすいてきたところなんだ・・・一息つくか」


 家の中にいたのは俺より3~4つ年上の青年だった。酒の一座にいた4人と比べると穏やかな印象でとてもモンスター退治しているようには見えない。


 俺から料理を受け取ると彼は旺盛な食欲を見せつけて食べ始める。


 ふと見ると何かをすり潰したものが入っている器と空きビン、それに大量の薬草が無造作に置かれている。それを見ていると青年が声を掛けてくる。


「それかい?ポーションを自前で作って補充してるんだよ・・・旅先だから補充が効かないし、この村の雑貨屋でポーションを買い占めるとここの人達に迷惑かけてしまうからね」


 なるほど、薬草を加工して自前でポーションを作っているということか。確かに冒険者達が用意する量は村の雑貨屋に置いている分じゃとても足りないからな。


「モンスター退治やりながらこんな事までやるなんて・・・冒険者ってスゲぇな」


 俺のつぶやきを聞いた青年はバツの悪そうな顔をして答える。


「いや・・・実は僕、パーティーの使う道具を管理している『荷物持ち』なんだよ・・・だからモンスター討伐の戦闘には関わってないんだ」

「え?荷物持ち??」


 聞きなれない単語が出てきて理解が出来ない。普通ポーションとか薬の類は自分で用意するものだろう?


「あはは、どうやら知らないようだから教えてあげよう・・・冒険者は自己責任が信条だから自分の使う道具は自分で持つのが当たり前だ、けど何日もかかる依頼-クエスト-の場合携帯する道具も増える事になる・・・そんなおもりをつけた状態で戦えるかい?」

「・・・」


 確かにモンスター討伐は何日もダンジョンに潜ったりする必要があるからポーションや薬はもちろんの事、食料やテントの準備も必要になる。

 パーティーメンバーのそれぞれが自分の荷物を背負ってモンスターと戦う事は実質不可能だ。数日分の薬や食料は戦闘になると邪魔なお荷物でしかなくなるからだ。


「だからパーティー全員の荷物をまとめて預かって管理する人間が必要になる、それが荷物持ちって役目なんだ」

「・・・なるほど」


 要するに役割分担というヤツか。それなら荷物を管理する事に徹底して戦闘は他のメンバーに任せていればOKというワケか。戦闘は専門外になる・・・?

 ・・・という事はもしや!


「あ、あの!!『荷物持ち』ってのは冒険者として登録できるんですか!?」

「うん?できるよ、普通の冒険者なら戦闘力のテストがあるけど荷物持ちなら特に無かったなぁ」


 そうか!荷物持ちならハズレ属性の俺にでも出来るかも知れない!


「お、俺・・・今の話を聞いて荷物持ちとして冒険者やってみたくなりました!」

「本当かい?珍しいなぁこんな面倒な仕事をやりたがるなんて・・・何か理由でもあるのかい?」

「実は・・・」


 ハズレ属性の事や冒険者として旅立ったセレの事などをかいつまんで話す。


「そりゃ幼馴染君を追っかけていきたいワケだ・・・じゃあ先輩たる僕からアドバイスをしてあげよう」

「お願いします!」


「荷物持ち、文字通り荷物を運んでなんぼのモノだからパーティー全員の荷物を抱えて行動できる筋力が必要・・・そして様々な知識も欠かせないんだ」


 荷物を抱える筋力は分かるけど知識??


「荷物持ちってのは道具の管理からメンバーの意向も把握して行動する必要があるんだ・・・例えばクエストに行く前にアイテムを揃えたりするだろ?マメなメンバーは自分達で揃えて荷物持ちに預けてくるけど、中には金を渡して購入から任せてくるパーティーだっている・・・何がどれだけ必要って物品の情報に、渡された経費を効率よく使うかって金の運用も必要になってくるんだ」


 なるほど・・・戦闘は免除される代わりにアイテムの運用や経済面でパーティーを支えなきゃならんってコトか。


「そして荷物持ちは裏方故にメンバーや周囲の人間から賞賛される事はまず無いと思った方がいい・・・早い話がクエストの報奨金の取り分は少なくて当たり前、またパーティーによっちゃあ荷物持ちなんて雇わないってのもよくあるコトさ」


 色んな面でサポートしつつ報酬は少な目で、ともすればパーティーからは必要とされないか・・・確かに面倒な役割だな。でも俺の答えは。


「それでも俺・・・荷物持ちを目指します!」

「そうかい、ならこれからトレーニングだな・・・自分と同じ体重の荷物を抱えて一日中森の中を歩き回れる筋力をつけることだ!」


「はい、頑張ります!俺はルーブルっていいます、先輩の名前を教えてもらっていいですか?」

「僕はフェオールっていうんだ、どこかの町で会えるのを楽しみにしているよ!」


 待っててくれセレ・・・俺は一人前の荷物持ちになって君と一緒に冒険者をやりたいんだ!

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