「キミ、回転寿司でラーメン食べるの?」 食べてみた結果……

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

回転寿司でラーメンを

「ねえ、マナってさ、回転寿司でラーメン食べるんだ」


 ツナ軍艦を食べながら、ユカが聞いてきた。

 

「うん。うまいよ」


 わたしは、鯛ダシのラーメンをすする。

 お皿の上に乗ったハマチを平らげながら。


「変かな?」

「そういうわけじゃないけど……」


 ユカは横の席に目を向けながら、カルビ握りをパクリ。


 隣の席では、女子高生がスイーツやフライドポテトを頼んでいる。アイスコーヒーを片手に。


「ほらあ。普通だって。ユカの後ろにいる夫婦なんて、エビフライしか食べてないよ」


 ジョッキでビールを煽りながら、夫婦してエビフライで乾杯中だ。


 気にせずわたしは、炙りサーモンを頬張ってラーメンのスープを飲む。

 

「サイドメニューは邪道ってタイプ?」

「そういうわけじゃ、ないんだけどね」

 

 友人になってから、ユカとは初めて二人だけで外食をする。

 

「寿司屋に来たら、お寿司食べなきゃなー、って思っちゃう」


ミートボール軍艦を口へ運ぶような子に言われても……。

 

「回転寿司屋は、お寿司だけが全てじゃないよ。うどんもおいしいよ」


 わたしのテーブルには、器が二つある。


 一つは平日限定で激安になるうどん。

 もうひとつは、今食べている鯛ダシのラーメンだ。


「うどんは惹かれた。でもここのイナリって、栗が入ってるでしょ? 甘いイナリと合わせるのはなーって思っちゃって」

 

 ユカは、エビアボカドをつまむ。


 この店は、イナリの味を統一していない。

 普通のイナリがないのだ。


 ユカの言う通り、ここではイナリをうどんと合わせるのは難しい。

 うどんといえばイナリ、という信念はあるようだ。


「寿司が好きなんだったら、ネタで何が好き?」

「めかぶ長芋納豆軍艦」

 

 彼女は、生魚はダメな子かな?

 寿司の概念が崩れそうだ。

 

 

「食べてみる、ラーメン?」

 


 回転レーンの屋根にある棚から、デザート用のスプーンを取る。


「ほれ」


 スプーンでスープをすくって、手渡した。


「では、いただきます……うん、おいしい!」

「でしょ?」

「お寿司でクドくなっちゃった舌に、ちょうどいいね」


 あ、え、おお、お寿司、ね。


 あんたの食べているヤツこそ、まごうことなきスナック寿司なんだけれど。


「わたしも寿司屋でラーメンは邪道かなーって思っていたけど、おいしいならなんでもおいしいよね、って思った」


「わかる。今ならわかるよ」



 タッチパネルを操作して、ユカはわたしと同じラーメンを頼んだ。



「うん、お寿司屋さんでラーメン、最高」


 こうやって、わたしたちは偏見をなくしていき、お互いの好きなことを知っていくのだろう。


「お寿司も最高だよね」

「うんうん」

 

 彼女が頼んでいたのは、エンガワと数の子だった。


「普通のお寿司も食べれるんじゃん!」

「だって、JKが生魚のお寿司好きって変じゃない?」

「普通!」

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