エピローグ

「いやぁーお疲れ様! ここまで長かったな」


 無事に神の部屋に戻ってきたピアを、ローウェンが労う。もうロン毛狼を糾弾する元気もなくぐったりしたピアは、体を投げ出すようにして椅子に腰掛けた。よく事態をわかっていないラディオルは、椅子に座りながら美味しそうにチョコレートをつまんでいる。こめかみを抑えつつも、ピアは満足そうに天井を仰いだ。


「まぁ大変だったが、いいものを見せてもらったよ。なんだかんだあいつら、結ばれるべくして結ばれたと言うか……」

「そうだねー! セスとアルテーシアもとっても可愛かった! 僕としてはもう少し見てみたかったけど」

「いや、十分堪能させてもらったよ。さて、俺達も元の世界へ帰るか」


 ローウェンがモニターの電源を消し、席を立つ。だが、何かに気付いたかのように「あ」と声をあげた。


「俺達どうやって帰るんだ……?」

「知らん。ボクも勝手に連れてこられただけだからな」

「うんー。僕も気付いたらここにいたから、帰り方はわからないよ?」

「お前天才魔導士だろ。なんとかしてくれよ。ほら、何か便利な道具とかあるんだろ? チョイチョイっと出してくれよ」

「おい、天才魔導士をドラえもん扱いするな!」

 

 ピアの肩をモミモミするローウェンの手をピアが鬱陶しそうに払いのける。ふとラディオルが机の上に視線をやり、ピラリと一枚の紙を掲げた。


「うーん、最初にバレンタイン城に置いてあった手紙を見るに、魔王を倒さないといけないっぽいねー! 魔王を倒すなんて面白そう! どこにいるんだろう! 僕、なんだかワクワクしてきた!」

「魔王〜? そんなやついたか?」

「ボクが知る限りでは、そんなやついなかったな」


 三人で腕組みしながら首を傾げていると、突然部屋の外からドタドタバタンと騒がしい音がした。何だ? と問う暇もなく、バーーンと部屋の扉が開き、元の世界の衣装を着た六人が血相変えて入ってくる。見慣れた黒狼の姿を見て、ローウェンがパッと顔を輝かせた。


「おおー! お前ら無事だったか!」

「無事だったかじゃねぇだろこのロン毛野郎! お前らが何か色々と仕込んでたんだな! 好き放題遊びやがって! 一回殴らせろ」

「あれ? お前キャラ違くねぇ!? げ。珍しく怒ってんのかよ! ちょっと落ち着けって」


 ローウェンの胸ぐらを掴むグレイルの横で、セスとアルテーシアもラディオルに詰め寄る。


「もう! 一体何なんですか! 私達とっても恥ずかしかったんですよ! その、セスのは、裸……とか見て……しまいましたし……きゃぁぁぁ!」

「えーでも君達仲良しだったじゃん。惚れ直したでしょ?」

「そ、そりゃアルテーシアは可愛かったし、いくら記憶を失っても俺は何度もルシアに恋をするのがわかったけど……って何言わせるんだよ!」

「もうセスったらそんなこと言わないで! 恥ずかしいです。わ、私も人のことは言えないのですが……」 


 セスとアルテーシアもプンプンと怒りながらラディオルに詰め寄るが、天然で惚気けてしまうこの二人はどう転んでも可愛いカップルだった。隣ではカートとフィーネが涙目になっている。


「ピアさん酷いですよ! 僕達の純情を弄んで……」

「兄様どういうことなの!? 結局私だけカートとキスしないまま終わっちゃったんだけど!」

「落ち着けフィーネ。お前の体はちゃんとカートとキスしてるんだから、な?」

「記憶や感触がなかったら意味がないの!」

「そうですよ! 僕多分、フィーネよりピアさんとキスしてる回数の方が多いんですよ!? どうしてくれるんですか!」


 本編でも番外編でもコラボでもピアとキッスをしたカートが涙ぐむ。珍しくカートもちょっと怒っているようだ。だが、思わず両の拳でポカポカとピアの胸を叩いた瞬間、カートとフィーネの体がスゥッと一瞬透き通った。


「えっ! 今体が透明になった……!?」

「わ、私も今消えそうな感触があったわ! もしかして、兄様を倒せば元の世界に戻れるってこと?」 


 自分の手足を見ながら小首を傾げる二人を見て、ラディオルがポンと手を叩く。


「あれー? もしかして、魔王って言うのは僕達ってオチ?」

「なるほど、この三人を倒せばいいってことなんだな……」


 ラディオルの言葉に、セスがキリッと顔を引き締めて剣の柄に手をかける。カートとグレイルもキラリと目を光らせながら攻撃の構えを取った。


「散々遊ばれた報いですよピアさん! 覚悟してください!」

「村長決定戦の再来だなローウェン! ぶちのめしてやるぜ!」

「えー! なんだか面白くなってきた! 戦闘なら僕負けないよー!」


 ラディオルがウキウキと楽しそうにセスの前にひらりと躍り出る。そこらへんで見つけた毛布を背中に羽織り、スッカリ魔王気取りだ。

 ノリノリのラディオルを見て、セスとカート、グレイルはぐっと気を引き締める。6対3とは言え、相手は魔将軍の一人に天才宮廷魔道士、そして人狼の村の村長(笑)だ。舐めてかかるわけにはいかない。


「おーーーーい!! 誰だ今俺のこと馬鹿にしたやつ! 殺す!」

「ふっ保護者として、カートの成長を見てやるのも悪くないな。ボクが直々に相手をしてやろう」

「わーい! 僕魔王って一回やってみたかったんだよねー! いつでもかかってきていいよー!」

「輝帝国の騎士として、負けるわけにはいかない!(訳:アルテーシアにカッコいい所を見せたい)」

「いつまでも僕を子供だと思わないでくださいね! ピアさん!」

「そろそろ村長交代してもいい頃合いだな。覚悟しろロン毛! オラァァァァァ!!」

  

 それぞれが思い思いの言葉を口にしながら戦いの火蓋が切って落とされる。部屋はあっという間に騒音と灰燼で埋め尽くされた。 


 全員が元の世界に戻れたか戻れなかったかは……神のみのぞ知る。

 

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