第5話 甘党ツンデレオオカミさまは、やっぱり『家内安全』を祈願したい。



 バッと後ろを振り返ると、すぐ真後ろに彼が居た。


 相変わらず、全体的に真っ白で、たまに赤がアクセントになっているが、番傘は持っていないらしい。

 顔も相変わらず繊細そうで美しい――が、その顔は明らかに怒っている。


 腕を組んで仁王立ちで私の事を見下ろしている彼に、私は慌てて口を開いた。


「あのっ! 昨日はありがとうございました! あとすみません……」


 この不機嫌は、どう考えても昨日の事をまだ怒っているんだろう。

 そう思い、私は礼と謝罪を彼に改めてする。


 しかしそれに、彼は鼻をフンと鳴らした。


「それはもう聞いた。それよりも、ソレは何だ!」


 え、ソレ……?

 ソレって何。


 そう思い、彼の視線を辿ってみる。

 そしてやっと、何の事を言っているのか理解した。


「あぁコレはコンビニスイーツのティラミスで――」

「その菓子を俺にも寄越せ!」

「えっ」


 予想外の要求に、思わず声を上げてしまった。

 食べるの?

 コンビニスイーツを?

 多分神様的な貴方が?


「……あっ、お供えなら、ちゃんとお塩をしましたけど」


 もしかしたらお供え物に気が付かなかったのかもしれない。

 だとしたら、その前でこれ見よがしに何かを食べ始めた私に腹を立てるのも無理はない。


 そう思って「ちゃんと貴方のもありますよ」と言ったつもりだったのだが、不機嫌そうに「はぁ?」と片眉を上げられた。


「じゃぁお前はあの量の塩を『はいどうぞ』って渡されてザクザク食べて『あぁ美味しい!』って、そうなるのかよ? えぇ?!」

「いえ私はなりませんけど」

「そうだろうが!」


 私の答えに彼がギャンッと言葉を被せる。


 ……つまり、これはアレだろうか?

 「神様の類だってそれは同じなんだぞ」とでも言いたいのかな。


「でもアレ、オオカミさんの好物なのでは?」

「好物が塩とか拷問か! 第一アレは調味料だろうが」

「そ、そうですね」

「調味料ってのは、食べ物の味付けをするためのものだろうが」

「その通りです」

「それを単体で好むやつが一体どこに居るっつうんだ! それに何より――俺は生粋の甘党だ!」

「えっ、そうなんですか?」


 つまり、だ。

 どうやら彼は、袋に詰められた塩よりも甘いスイーツをご所望だという事らしい。


「あ、じゃぁシュークリームとか食べます?」


 神様っぽい何かという事で最初こそかなり緊張してた私だけど、話してると何だかそんな緊張がすっかり馬鹿らしくなった。

 だから少し砕けながら、彼に未開封のシュークリームを勧めてみる。


 ご所望だったのはティラミスだったけど、流石にコレは食べかけだし。

 それに甘党っていう事なら、ちょっと大人の味がするティラミスよりもこのカスタードとホイップがどっちも入ってるビックサイズのシュークリームの方が、たぶん好きなんじゃないかな。


 

 私が差し出したシュークリームを乱暴に奪い取り、彼は私の隣にドカッと座った。

 そしてこれまた乱暴に包みをバリッと外した所で、まずはスンスンと匂いを嗅ぐ。


 何かちょっと可愛い仕草だ。

 が、そんな風に警戒しておきながら、食べる時は大口で思い切り被り付いた。

 そして無言のままモグモグと咀嚼する。


「……うん、まぁ、まぁまぁだな」


 言いながら口元に付いたクリームを親指で拭ってペロリと舐めるその仕草は、食べっぷりと時々見える大きな牙も相まって、ちょっとワイルドっぽい。


 が、ダメだよそれじゃぁ。

 あぁほら尻尾が喜んでる喜んでる。



 「どうやら気に入ったらしいな」と思いつつ「まだあるよ?」と言ってみると、無言で手がズイッと伸びてきた。

 見れば顔はそっぽを向いてフンッと鼻を鳴らしているが、耳はこちらの動向をしっかり拾おうとしている。

 

 私にはオオカミの生態とか良く分からないけど、犬と同じで良いんだとしたらこの尻尾と耳の動きを合わせて「こっちにめっちゃ興味津々」っていう事になっちゃうんだけど、それで良いっていう事なのかな?

 そう思いつつ、私は「はい」とその手の上にシュークリームを配置した。


 

 私も隣でティラミスにパクつきながら、彼を見る。


 相変わらず「まぁまぁだな、まぁまぁ……」と言いながらそれでも食べる手が一向に止まる気配なく、尻尾も忙しそうな彼。

 その姿に「何だかちょっと餌付けでもしている気分になってきた」と思ってしまうのは、一応人型の彼には失礼だろうか。


 と、先程もチラリと見えてた牙もそうだけど、よく見れば手の爪だってかなり鋭い。

 繊細そうな見た目をしてるからあまり思わなかったけど、耳や尻尾以外にも獣っぽい所があるらしい。


 なんて思っていると、「おいお前!」と声を掛けられた。


「明日もこれらを供える事を、この俺が許可してやろう」

「……私、暇はあるけど余分な金は無い休職中の身なんだから、流石にそう毎日はコンビニスイーツなんて買えないよ?」

「む……じゃぁどの程度なら持ってこれる」


 お断り申し上げたら、ティラミスを全部平らげた彼がプラスチックのスプーンを咥えながら聞いてくる。


「うーん……まぁ、一週間に一度くらいなら?」

「じゃぁそれでいい、その代わり必ず持ってこい」


 強制らしい。

 まぁでも私もちょうど暇つぶしの相手が欲しかったからおあいこか。


「仕方がないなぁ」


 私がそう答えると、彼は頷いた後で思い出して「あ、しかしもうああいうのは止めろよな」と言ってくる。


「ああいうの?」

「変なの憑けてくるなよっていう話だ」


 そう言うと、彼はフンッと鼻を鳴らす。


「最初にも言ったけど、俺は『家内安全』とかのをしか募集してないんだからな!」


 どうだろう、それは約束できないかもしれない。


~~Fin.


――――――


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憑き物落としのオオカミさんは、『家内安全』を祈願したい……らしいけど。 ~たまたま行った地元の神社でケモ耳男子と出逢たけれど、これはこれで仲良くできそう~ 野菜ばたけ@『祝・聖なれ』二巻制作決定✨ @yasaibatake

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