第23話 亡国のバイア・マルガリア王国

「殿……お頭、それはしゃべりすぎでは」

「いい、どの道もう存在しない国なのだから」


 海賊ローランが語った話によると、この海賊の一味はもとバイア・マルガリア王国の海軍だったという。オリヴィエル帝国と紛争になり結局滅ぼされた。

 商売が盛んな北方の小国で海戦はそこそこ強かったが、陸軍では押され結局半年で首都を攻略された。


「西風の魔王という脅威がいるってのにねぇ」

 トリヒーヨはためいきをついた。


 話が長くなりそうだったのでフィリップに与えられた小屋に集まり、温めた葡萄酒を皆で飲んでいた。どこで手に入れたのかハチミツとしょうがっぽい味付けでうまかった。


「そうするとローランさんはバイア・マルガリア王国の姫ってことに?」

 フィリップは素朴な疑問を口にした。


「んーどうかしらねぇ、首都攻略後、王族は滅ぼされているし今から20年も昔の話よ」

 こういうときクルエラがいたならこっそりこの世界の常識を教えてくれるのだろう。


「王族が残っていたらよかったのですが、実際のところ王位継承権は持っていますが殿下は伯爵の子女にあたるのであります」

 ローランに付き従っていた白髪の老人は急に軍人調の話し方になった。


「海戦ではそれなりに戦ったのでありますが、いかんせん陸地では帝国の新式軍にかなわず」

「あらん? あなたどこかで見たことあると思ったらもしかして"虎狼提督"ホドフリートかしら?」とトルヒーヨ。

「……昔の名であります」

「王国滅亡後、幼児だったローラン閣下が自動的に伯爵位を継承し、同時に唯一の王国の正当な王位継承者となったってわけねぇ、てっきり関係者はもうみんな死んじゃったと思っていたけどねぇ」

 トルヒーヨは腕組みしてため息をついた。


「……それで肝心の身代金だけど?」

「あぁ……金貨3000枚でお願いしたいと思っている」

 ローランが言い切った。


「ふーんまぁ、もともとはあの海賊船、バイア・マルガリア王国の海軍船でしょ。最近流行りの戦列艦じゃないけどまぁまぁな船よね。金貨3000枚だと単純に補修費用かしら?」

「……」

「要するに海賊家業が儲かってないのね」

「……一隻の船を維持するのがやっとであります」


 ホドフリートががっくりと肩を落とした。

「もっと安いスクーナーとか買えばいいんじゃないの?」

「……火力が不足するので」

「その火力で襲える相手を襲えば?」

「それは海軍の誇りが許さず」

「……その海軍もうないじゃないのサ」

「……」


 トルヒーヨの舌鉾ぜつぼうにホドフリートとローランはどんよりと黙ってしまった。 

 どうも細々と唯一残った海軍艦を使って海賊行為を働いていたものの、たまに通りがかる大物だけを狙い、収支はそれほどよくなく困っているようだった。


 そういう細々とした海賊だから大きな討伐作戦が起こされることもなく、半ば事故のような扱いだったというわけだ。


「というわけで身代金値切ることができるかもしれないけどどうする?」

 トルヒーヨがひそひそと話しかけてきた。


「そうだな……よし船を海賊の皆さんごと買おう」

 その時の全員の驚愕しきった表情はなかなかの見ものだったのである。


――フィリップの現在の所持金

変更なし


・現在の所持金

なし



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【改訂版】マスターレベルの錬金術師となった転移者のおっさんは島を買って魔王と戦う Edu @Edoo

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