第22話 人質交渉で金貨3000枚!?
それからフィリップは海賊の家で丁重に扱われた。
ケガがないかも調べられたが大丈夫そうだった。
豪華とはいえなかったが銀食器で黒パンと肉と野菜のスープも三食でてきたので栄養失調なども恐れもなさそうだった。
3日ほどでマスターレベルの錬金を再開できる状態にはなったが、変に黄金の物質を持っていても詮索されそうなのでとりあえず言われた通りに捕虜生活を送った。
1週間も経つと危険な人物ではないしケンカも弱そうということが分かったらしく、家の周りに出てよいということになった。
ヴァイキングのロングハウスに似た家から出ると、このあたりが丘陵地帯であることがわかった。フィリップが軟禁されている家以外も、カヤかワラのような植物で屋根をふいた作りになっていた。
寒々とした空で丘陵の短い草はどこか土気色をしていた。
地球と比べて青い太陽のせいで余計に冷たい印象の景色だ。
この海賊の集落は木の柵で囲まれ、周囲は灰色の海に囲まれている。海岸付近にもうひとつ木の柵と港らしきものがあり、小高い丘が目隠しになっていた。あのあたりに海賊船があるのだろう。
海賊もどこか暇そうで噛みタバコをかみかみ、見張り台の上でラッパ銃を抱えてぼうっとしている。どちらかというと海賊の家族と思われる女性や子供たちが皮をなめしたり、畑にでかけたりと忙しそうだった。
ただ他の土地で見聞きしたのと違ってあまり亜人はいない。ほぼ人間だ。
そして海賊であることをのぞけば非常に平和な集落に見えた。
「それにしても全然助けがこない」
フィリップは与えられた家の中でぼんやりと過ごしながら思った。
エレノアとか、雇いのロークたちが救援にきてもいいのではないかと。
しかしその静寂はさらに数日で破られることになった。
「来ちゃった」
ド派手な金糸銀糸に絹の服装、派手な化粧。
そして高い背。
女装家のトルヒーヨである。帝都レザンブロンでフィリップが錬金した物品の販売代行を請け負った大商人でもある。
海賊たちも困ったように遠巻きにしていた。
「……えっ!?」
「え、じゃないわよぉ」
トルヒーヨが鼻をならす。
「……すまない我々も止めたんだが本人が行くと」
トルヒーヨの背後から出てきたのは賢者ロークだった。
「そうよぉ、人質交渉でしょ? ならアタシが直接きたほうがいいじゃない」
とトルヒーヨはある意味分厚い胸をはった。
「とりあえず交渉で一人と、大きな武器をもたない前提で私が行くことにしたんだ」
とローク。
ロークは短刀だけ腰に差していて杖も持っていなかった。
「この装備なら私の火力が一番大きいだろうからね。ステラはやりすぎるし」
「なるほど……」
「ところでサ」
トルヒーヨが近づく。
「実際のところいくらくらいまで交渉可能なのヨ」
「……帝都とかどこかに戻れればまぁいくらでも」
「いまのところこの間の戦利品は金貨1000枚くらいにはなるけどサ」
「そのうち半分くらいじゃないかな」
「いやー待たせたねお客人」
くすんだ金髪の海賊ローランが護衛と思われる海賊を連れてやってきた。
今日はきらびやかな海軍士官のような服を身に着けている。
トルヒーヨが目を細めた。
「あらんなかなかいいお召し物じゃなくて?」
「一張羅なの」
ローランはちょっと得意そうだ。
一同はとりあえずロークが軟禁されている小屋に入った。
「……人質交渉に入る前になんなんだけど、それバイア・マルガリア王国の提督服じゃなぁい?」
ローランの表情が一瞬変わった。
「……ただの戦利品よ」
「にしてはずいぶんこなれた感じね」
「……」
ローランは押し黙った。
「そ、それはいいから人質交渉じゃないかな?」
焦ったロークが空気を変えようとしたのか無理に陽気な声をあげた。人質にとられている側のセリフじゃない……とフィリップは思った。
「まぁいいわ、まずズバリ言い値を聞きたいわねぇ」
トルヒーヨは腕組みをする。
「……金貨3000枚」
「あらん?」
トルヒーヨは表情も変えずにフンと鼻をならした。
(……だいたい日本円換算だと……1枚80000円だとして、2億4000万円!?)
フィリップはかろうじて表情を変えないように突っ張った。
トルヒーヨに預けた物品がおおよそ金貨1000枚になりそうとのことだったのでその3倍だ。
「いいわよ、出すわよ」
(えっ)
「ただ情報料ってわけじゃないけど、もう少し詳しくこの珍しい海賊の成り立ちを聞かせてくれないかしら?」
「……」
ローランはしばらく黙っていたが、やがて語りだした。
それは少し意外な話だったのだった。
――フィリップの現在の所持金
変更なし
・現在の所持金
なし
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