第14話 馬の見つめた先へ

宗佐衛門は、検非違使などに養父を殺した人物に対して聞いた。

「まだ見つかってはおらん。見つかったなら伝えると言っておるだろう!」

「そうですか・・・。」

「お主こそ、心当たりはあるのか?」

「いえ・・・、ありません。」

「長兵衛はお主ら三兄弟と同居していただろう?ほかに恨みなど持つ人物の話は?他の家族の話は聞いておらんか?」

「恨みを持つ人物に全く心当たりはございませぬ。だが、家族は以前妻子を病で亡くし、息子は鍛錬に向かわせた後、事故で死んだと聞いておりまするな。」

「その息子の名は?」

「私が聞いておりますのは、一郎、と。」

「ならば、もう一度こちらでも調べてみよう。」


宗佐衛門は、タケに乗って家に戻る。

チサと三平は、宗佐衛門に駆け寄る。

「兄様、どうだったの・・・?」

「手掛かりはまだ見つかっていないようだ。」

「そう・・・。」

「兄ちゃん、オラもなんか手伝いたい!」

「お前たちまで危険にさらすことはできない。だが、気持ちはともにあろう。」

半左エ門はウメを走らせて、宗佐衛門を呼びに来る。

「兄さん!招集命令がかかっているぞ!」

「わかった!」

宗佐衛門は合戦の用意をして家を出ようとする。

「兄様、半左エ門、気を付けていってらっしゃい!」

「家はオラが守る。姉ちゃんもオラが守るから!」

「ああ。ありがとう。では、行ってくる。二人とも、無理はするな。」

そう言い残して、宗佐衛門はタケに跨り、半左エ門とともに合戦へと向かった。


宗佐衛門と半左エ門は、二人で協力して弓を射かける。

その時に、宗佐衛門は見覚えのあるものを見つけた。


袖口がボロボロになった、黒い着物を着た男がいたのである。

「待て!そこの御仁!」

宗佐衛門は止めようとすると、ヒュン、と空を切る音がした。

宗佐衛門は慌ててかわして尻もちをつく。

「貴君、気安く触れようとするな!」

「・・・あなたは!」


宗佐衛門の記憶が不意に浮かんだ。


太兵衛、であったあの時、父を刺した男に酷似している。

そして、その時に使っていたであろう直刀が目の前にある。


「馬飼いの長兵衛の長男、一郎さ。」

「まさか・・・!死んだはずではなかったのか!?」

「はは、あれは同期で俺に似た男さ。不思議なほどよく似ていたが、あいつのせいで俺は死にかけ、反撃をしたらあっけなくあいつは死に、私はあいつと成り替わったのさ。」

「なぜ、そんなことを!」

「・・・羨ましかったんだよ!愛されているお坊ちゃんがな!父親も、あんなに馬と妻、娘ばかりにかまけた飲んだくれだった!」

「だからと言って!」

「そうさ、俺が父親を殺したんだ。ずいぶん前にも、唆した野盗どもと交戦した男もな!」

「お前は・・・、お前が、俺の父二人の仇か!」


頭に血が上る。

この男を討って、かたき討ちを完遂せねば!

宗佐衛門は無我夢中であった。

逃げようとする一郎をタケと共に追いかける。


「兄さん!」

半左エ門はそんな宗佐衛門を止めようとした。

「半左エ門!お前はあちらの道を行け!」

「・・・わかったよ。」


半左エ門は宗佐衛門の気迫に押され、手を貸す。

優しい宗佐衛門だったから兄と慕うこともできたのに・・・、そう思いながら。


突如、半左エ門の脇腹に熱い感覚が走る。

だが、半左エ門はその熱い感覚に負けず、愛用していた薙刀を振るった。

ボタボタとウメの体は赤くなる。

半左エ門の血が、ウメに滴っているのだ。


宗佐衛門は一郎を太刀で殴りつける。

「殺すか?殺したいのか?ハハ、いいぞ。」

「・・・検非違使に差し出す。お前はこれから罪を裁かれろ!検非違使によって激しい拷問など受ければよいのだ。」

宗佐衛門は一郎を捕縛した。

そして、上官へ事情を話し、衛兵を見張りに付けることとした。


半左エ門は息も絶え絶えに、そんな宗佐衛門を見ていた。

「やっぱり・・・、兄さんは・・・優しいな。」

「話すな、半左エ門。」

「えへへ・・・。厳しくても・・・やっぱ・・・にいさ・・・」

「半左エ門!」


そのまま、半左エ門は話すことも動くこともなかった。

「武士というのは・・・!武士という生き物は・・・!必ず戦わねばならぬのか!」

宗佐衛門は安綱の太刀を地面に突き立て、半左エ門の遺骸を抱きしめて慟哭した。


戦を終え、宗佐衛門は半左エ門の遺体を彼の母親に託し、家に戻る。


そして、タケだけを連れた。

「・・・お前たちは幸せに暮らしてくれ。」


「兄様・・・。」

「兄ちゃん・・・、元気でな!」


彼は、自ら出家という道を選んだのである。

今まで戦で屠ってきた命を、友や親の命を弔うために。

残されたウメは宗佐衛門とタケの選んで進もうとした道を、ただその大きな瞳で見つめ続けていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

馬の見つめた先へ 金森 怜香 @asutai1119

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ