十五度の梅酒(ヒューマンドラマ)
スーパーの入り口、一番に目につく場所、季節物の商品が買えと言わんばかりに並べられている陳列台に青梅を見つけた。もうそんな季節かと手に取ってみる。
子供のころ、一緒に住んでいたおばあちゃんはこの季節に梅酒を作っていた。青い梅を銀色のボウルに入れて流水でざぶざぶと洗う姿をよく覚えている。
梅酒用の容器に入りきらなかった梅と氷砂糖は、子供だった私のためにシロップにしてくれた。瓶の中で時間をかけて溶けていく氷砂糖と、だんだんとしわが入って色が変わる梅の不思議を毎日学校から帰ると眺めていたものだ。
今ではすっかりシロップよりもお酒が似合う年になってしまった。私はそっと青梅を台に戻し、店内を一周して最後に瓶の梅酒をかごに入れた。
寝る前に買ったばかりの梅酒をロックグラスに注いでみる。カラカラと氷が回りながら少し溶けていく。
結局、私はおばあちゃんの梅酒を飲むことはなかった。一体どんな味だったのだろうか。私が飲んでいた、甘ったるい梅シロップの炭酸割と似ていたのだろうか。
グラスを手にベランダに出た。春から梅雨になる季節、少し湿気を含んだ重い風が肌を撫でる。この季節に私は今でも思い出す。たった十五度しかなかった、私の春の思い出を。
短編 ジュンち @junchi_wkm
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