パーカー借りてるよ

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

おっきくて好き

「えへへぇ、パーカー借りてるよぉ、くまま」


 私がシャワーから上がると、またノゾミは私のパーカーを着ている。

 ちゃんとした替えの服は、用意したはずなんだが。

 

「くまま」というのは、私のあだ名だ。

 名前が「熊谷くまがい 由真ゆま」というからである。


「ノゾミ、また私の服を着て。自分のがあるじゃん」

「だって、あたしのは乾いてないんだもん」


 突然の秋雨に濡れて、制服を乾かすついでで私の家に一緒に上がった。

 先にシャワーを浴びてもらい、私が後から入ったのだが。


 下は貸した短パンなんだが、上だけはパーカーである。


 なぜか、ノゾミはわたしのパーカーにこだわった。

 

「くままのパーカー、おっきくて好きー」


 たしかに、女子にしては長身な私は、どれもサイズが大きい。

 

「胸のサイズは、合ってないじゃん」

「ほんとだ。そこだけピッチリなんだよねー」



 胸のあたりを引っ張りながら、えへへーとノゾミは笑う。

 変に引っ張るから、胸だけムダに強調されていた。



「ほら、ホットカフェオレでいいでしょ?」

「ありがとー」


 私が持ってきたトレイから、ノゾミはマグカップを大事そうに持つ。


「うわーあったかー」


 手で包みながら、ノゾミが暖を取る。


「エアコン付けたじゃん」

「それでもうれしいよー、ホットのコーヒーは」


 ズズズ、と、ノゾミは少しずつカフェオレを飲む。


 熱いのが平気な私は、カップをグイッとあおった。


「やだぁ。くまま、おっさーん」

「誰がだ!」


 わたしは、お茶請けにポテチを出す。


「ポテチも、ビッグサイズだ」

「これくらいないと、食べた気しない」

「さすが運動部だねー」

「ほんとは、健康管理が大事だけど、いろいろあんの」


 ひときわ大きいサイズのポテチを、バリッと食べる。


「やっぱ、くままはおっさんだね」

「ちがいますー。ギャルですー」

「ギャルはそんな大口開けないってー」

 

 二人で競うように、バリバリとポテチを消費していく。


「雨、やまないねー」

「部活はなくなったけど、こうも長く続かれるとね」


 ホントは、この雨に感謝している。


 雨が降っているときだけは、ノゾミと一緒にいられるから。


 走っているときは、何もかも忘れることができる。


 でも、ノゾミのことはいつだって頭にあった。


 本格的に陸上を初めて、ノゾミは寂しがっていないか。

 もっと話を聞いてあげたほうがよかったか。


 でも、彼女には彼女の人生がある。


「パーカーありがと。洗って返すね」

「いつだっていいから」

「大会、応援行くね」


 突然、ノゾミが手を叩く。


「そうだ。応援のとき、これ着ていくよ!」

「そのパーカーを?」

「うん」


「イカのバケモノが来たのかと思われるよ」



 ノゾミは、クラスで一番背が低い。


 わたしのパーカーを着ていても、手どころか足さえ出てこないのだ。

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