3杯目 推しが増えていく

 カープファンになるきっかけを作った大瀬良投手は、もちろん最推しである。応援していくうちに、大瀬良投手は試合の途中から登板する救援投手リリーフから先発投手スターターに変わった。


 大瀬良投手は中継ぎから先発に変わり、より長い回を投げるようになった。それは嬉しいことだが、問題は一つだけあった。


 推しの活躍を、現地観戦で見られる確率が低くなる。


「いやいや、先発なら当日券を買えばいいじゃないの。どの先発投手が投げるのか、試合の前日に発表されているんだから」


 野球観戦をしたことのある方から、こんなツッコミが上がりそうだ。

 確かに、球団のサイトでも本拠地マツダスタジアムのチケットを入手できるし、チケットプレイガイドにも取り扱いがある。


 しかし、カープの本拠地主催試合のチケットは、前売りで完売してしまう人気ぶり。私がファンになった時期は、特に入手困難の時代に入っていた。なお、父が子どもの頃(まだ低迷期ではないが、そこまで強くなかったらしい)は、いつでも買えたようだ。

 つまり、マツダスタジアムのチケットを入手するためには、前売りの一斉発売当日に買う必要がある。スケジュールに合う観戦日なんて選ぶ余裕はない。勘で決める。財布の紐を握る母が。


「四月と五月は二週間ごとに取るとして……梅雨は雨天中止になるから避けないとね。優勝しそうな時期はこの辺りかな?」


 そんな具合で、に期待をかける。確実に買えないのは仕方ない。買い占めされたらチャンスがゼロになるからだ。

 ホームでの大瀬良投手の登板が生で見られにくい理由を、お分かりいただけただろうか。


 仮に、入手したチケットの観戦日に登板すると予知できたとしても、チーム状況によって登板が早まることもあれば、登板が延びることもある。加えて、野外の球場マツダスタジアムでは雨天中止により、その日に投げられなかった人を翌日に投げさせる場合も起こり得るのだ。


 だから、推しの投げない試合日に観戦する可能性は高い。お気に入りの選手を増やさなければ、楽しみが減ってしまう。

 とはいえ、好きな球団を応援していれば、どの選手も平等に推したくなる。大瀬良選手以外の応援歌と背番号も少しずつ覚えていった。

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