安是の里では「女」が光る。
そんな嘘か誠かもわからぬ噂を頼りに遥野郷の奥地を訪れたひとりの学者は、案内役だったはずの油屋に騙され、崖から転落する。怪我を負った学者を助けたのは熾のような熱を帯びた女だった。その後意識を取りもどした学者は、恩人たる女がまだ年端もいかぬ「娘」であったことを知る。
囲碁、将棋、西津カルタ、富突き、丁半賭博、花札、そして「色当て」と賭け事を好む男衆で賑わうその小屋で利巧に立ちまわる娘「阿古」の幼けなさと敏さにこころを惹かれた学者は彼女を養子にし、都に連れ帰りたいと想うようになる――
「安是の娘」が「女」になったとき、果たして如何に《光る》のか。
民俗学の文献を想わせる厚みのある世界観と婀娜めかしく華やかな場景で織りなされた奇譚。まるで万華鏡のよう。読み終えた後は暫く、余韻に浸り、放心致しておりました。それほどの熱を帯びた短編小説でございます。
魅了された御方は本編である「かすみ燃ゆ」も必読です。
「その里では恋した女は光る」そんな伝承を調査しに向かった主人公。
深山で怪我を負い行き倒れ、1人の子供に助けられることに。
少女の名は阿古。怪我が治癒するまで里へと滞在する事になった主人公だが、何やらこの里は秘密を抱えているようで――
阿古。五十音の始まりである「あ」の字を持ち、密教においては「『阿』こそが始まりであり、全てである」とみなす阿字観のシンボルとなる「阿」字を持つ少女。
まさに物語を始めるのに相応しい名を持つ少女を中心として、里山が動き出します。
東国遥野郷の最奥、安是の里。恋する女はその身から光を発す。その姿はさながら蛍。光の色は、情念(いろ)に通じ、女ごとに異なるとも。
深山の女が織りなす光が絡み合う、幻想的であり、容赦のない伝奇譚が幕を開けます。
安是の伝奇譚の、そして、阿古の始まりである赤い雨の物語。ぜひご一読を。