第4話 おこたはやっぱりあったかいなぁ
ぺたっ
ぺたっ
年末も間近となり、師走の如く裸足で小走りする夢衣。
家の中とはいえ靴下を履かないで過ごすのは体調を崩すリスクがつく。
しかしこれにはある理由があった。
「う~さぶいさぶい!」
ブルッと震えながら急ぎ気味に廊下を渡っていく夢衣。
その進行方向には、無意識のうちに1000分の1サイズまで縮小転送された人たちが列を並べていた。
彼らはここが何処なのか混乱していたが、遥か遠くから少女の姿をした大巨人が地面を揺るがしながら急接近してくるのを見て、すぐに自分たちが窮地に陥っていることを把握した。
皆瞬時に逃げ出したが、ゴマ粒サイズと化した彼らの走る速度では夢衣の進行方向から抜け出すのには時間が足りなかった。
「やめ、ああぁぁあッ!」
ズシィインッ!! ぷちぷちっ
「わあぁあッ!頼む、踏まないでく」
ズシィインッ!! ぷちぷちぷちっ
夢衣の足下で次々と無情にも踏み潰されていくこびとたち。
寒さで冷えきった冷たい素足は感覚が鈍くなっているのもあってか、ちいさな人間たちを踏み潰している感触を得ることが出来なかったのだろう。
結局、そこにいた全員がゴミのように夢衣の足裏にこびりついてしまった。
そんなことも露知らず、夢衣は急ぎ足で目的地へと向かっていった。
※
「はぁ~~………あったかい………。」
求めていた場所に辿り着き、ぬくぬくと温もりを満喫する夢衣。
そう、こたつである。
裸足でこたつに足を入れるのは真冬の三大極楽として有名である(ちなみに残りふたつはあったかお風呂に浸かる時と、あったかお布団に入る時である)。
こたつの中で冷たかった足がじわじわと暖まっていき、若干のむず痒い感覚と一緒につま先から徐々に気持ち良くなっていく。
極上の幸せを噛み締めながら、夢衣は溶けたアイスのようにこたつの上に倒れ込んだ。
緩み切った表情はにへら~っと笑みを浮かべ、大変だらしのない状態になっていた。友達に見られたらかなり恥ずかしい姿であるのは間違いないだろう。
だがこたつにはそれだけの魔力が備わっていた。
こたつは人をダメにする家具なのだ。
そんな極楽を味わっている夢衣とは裏腹に、こたつの中では地獄のような事態が起きていた。無意識に縮小転送された大勢の人間が、こたつの中で灼熱地獄にさらされていたのだ。
1000分の1サイズにされた人々にとってこたつの内部は肌が焼き焦げるような暑さであり、厚着をしていなかった人たちは文字通り干からびて干し物と化していった。
更に夢衣が無意識に足の指をくにくにと動かすことで、足指の隙間に縮小転送された人々は即座に磨り潰されていた。
こたつの熱や足指の動きから逃れられた者たちもいたが、夢衣の素足から放たれる足の臭いは彼等にとっては約1000倍の威力を誇る。その凶悪な刺激臭は彼等の呼吸器官を機能不全にし、次々と息絶えていった。
夢衣の足は特別臭い訳ではなかったが、ほぼゼロ距離かつゴマ粒サイズの人々にとっては吸っただけで死活問題になる毒ガスレベルの匂いだったのだ。
※
「く~………。」
多数の犠牲者が出ていることにも気付かず、夢衣はこたつのテーブルに突っ伏して眠っていた。
その微笑ましい寝顔からは、数多くの人間を死に至らしめてきた張本人だとは到底思えないだろう。
だが、現に彼女は無慈悲な大量殺戮をしていた。今まさに、すやすやと眠る顔の真下で………。
こたつテーブルの表面近くにある夢衣の顔面。その真下には同じく1000分の1の大きさまで縮められた人々が、夢衣の天を覆い尽くす巨大な顔面に恐怖し、荒れ狂う暴風のような鼻息に苦しめられていた。
夢衣の寝息は女の子らしい小さなものだったが、こびとたちにとっては最早災害である。
人間の身体などズタズタに引き裂かれてしまう風圧。上空にはこびとたちを容赦なく吸い込む巨大なふたつの穴。
そしてとどめに、夢衣の口角から無限に垂れ落ちてくる大量のよだれ。夢衣の口腔内で大繁殖した菌は、よだれの匂いをより強烈なものへと変化させていた。
そんな悪臭漂う夢衣のよだれは、真下にいるこびとたちへ向かって落ちていく。こびとたちは一斉に粘着性を伴ったよだれに囚われていく。勢い良く広がるよだれの湖はそこにいたこびとを一瞬で呑み込み、やがて助けを乞う者の声は聞こえなくなっていた。
「く~……ふふっ、お年玉だぁ………。」
幸せそうに寝言を喋る夢衣。
いち早く新年を迎える夢を楽しむ夢衣に対し、誰にも認知されないままひっそりと死に絶える大勢の人々。
こたつで繰り広げられた天国と地獄は誰にも知られることなく、新しい年を迎えようとしていた。
式井戸夢衣ちゃん露知らず 潰れたトマト @ma-tyokusen
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