主人公の旬は、ブラック企業で働いて会社を辞め、心療内科にかかっていたところ、伯母のすすめで彼の祖父母の家の管理人として住み込みで働くことになります。
その家への道すがら、不思議な声を聞いた彼の前にはなんと四十がらみの男性の幽霊が現れて——?
過酷な日々を送っていた青年が、自身の名前も覚えていない幽霊に出会ってしまい、彼の名前を思い出して欲しい、と依頼され、少しずつ自分の記憶と幽霊さんの素性を探りながら物語が進んでいきます。
旬くんの過去は、働く人ならもしかしたら一度は経験したことがあるかもしれないようなもので、読んでいて辛く感じてしまうこともあるかもしれません。けれど、彼の伯母さんをはじめ、謎の幽霊さんも従兄弟の青年も皆やさしく、少しずつ彼の心の傷が癒やされていくのを見守る読者としてもほっとするとともに、幽霊さんの素性がますます気になっていきます。
なぜ幽霊さんは旬の前に現れたのか。そしてその結末は……。
都会で孤独や寂しさを感じる人にも響く、少し切なくて、けれどとても(生)温かい幽霊さんと青年との心温まるヒューマンドラマでした。
おすすめです!
仕事に疲れ切ってしまった主人公・旬が、幽霊に取り憑かれる。
…と言うと踏んだり蹴ったりのようですが、幽霊「シモツキさん」は意外に無害。むしろ旬を心配してくれたり、(憑いているので当たり前ですが)そばにいてくれる。
何か縁のあるらしいこの幽霊、一体何者なのか。
感情を口に出す事もできないほど心が凝り固まってしまっていた旬が、シモツキさんとの時間を過ごす中でゆっくりと変わっていく様子が愛おしいです。
心温まる物語ですが、何だかんだ言っても幽霊もの。心温まるだけでは終わりません…。
シモツキさんについて少しずつわかるにつれ、過ぎゆく11月の残り日数はカウントダウンとなっていく。ノベルバーの特質やお題を活かした、構成も面白い作品です。
ブラック企業のせいで心身が疲弊した大沢旬青年。つらい浮世を離れて亡き祖母の家に移住した彼は、移住先で本当に浮世を離れてしまったおじさん幽霊と同居を始めることになる。
これは旬青年がもがき苦しみながらも前に進もうとする物語です。
彼自身は自分がどれほど傷ついて苦しんでいるのか自覚が薄いようですが、見守ってくれている幽霊おじさんはありのままの彼に寄り添ってくれます。
親子のように、兄弟のように、穏やかな日常生活を送る二人。
でも、幽霊おじさんは失った記憶を取り戻したら成仏してしまうらしい……。
せっかく家族っぽくなれたのに? 読者はここに流れるゆったりした時間に癒されると同時に危なっかしい旬青年や消えちゃうかもしれない幽霊おじさんを心配してはらはらしたりもします。
幽霊おじさんはどこから来たのか、旬青年は今後の人生とどう向き合うのか、物語にするすると流されながら楽しませていただきました。