戦に敗れた国の若き王子とその腹心が、強国に無理を言われたり、祖国でつらい立場に置かれたりするお話。
重厚な時代ものの物語、それも「マヤ文明風」という珍しい舞台の作品です。
自分は(このレビューを書いている私個人は)マヤ文明については何も知識がないのですけれど、それでも十分に楽しめます。
ある種のファンタジーを重ねられるというか、「現代の日本ではない、いつかのどこか」のお話として堪能しました。
主人公らの身に降りかかる苦難というか、置かれた状況そのものがもう苦しくて切ない!
完全にジリ貧で、頼れる味方もほぼないような状況で、なおも気高くあろうとする若き王子の、その悲壮な姿には胸を打つものがありました。
最終盤が好きです。お話の主軸は王子と腹心、そのふたりの関係性や絆にあると思うのですけれど、それがああいう形に収まっていくのがもう……ここでは詳しくは触れませんので(ネタバレになるので)、ぜひ本編で見てみてください。
とても心を揺さぶる物語でした。苦境に立たされた人間のドラマっていいよね。
マヤとペテン地方という珍しい舞台の短編。
タイトルにある戦争後、敗戦国の王子を主人公としているのですが、「戦争などするものではない、ましてや敗北など。それが避けられない戦いであったらならば、なおさらに」とつくづく思わされるような、辛いシーンが続きます。
戦勝国には無理難題をふっかけられ、自国民にはあんな無能な王家はもういらんと言われ、頼れるのは幼なじみの腹心ただ一人。
信じていた人に裏切られ、腹心にすら恐怖を覚えるほど追い詰められた主人公の姿は涙を誘います。そして明るい未来も見えないまま閉じる物語。
そんなお話の中で、「神」というテーマの使い方は意外なものでした。それが少しでもよすがになるのであれば、まさしくそれは「神さま」なのでしょう。