第118話 オルグレン伯爵家 2/2

 皆で黙々と頑張っていたら、来客の時間で呼ばれた。今日の来客は城を辞したアンナの師匠シャイナ。

 城を辞めたらこちらを手伝わない? せめて顔を出しに来てって、アンナと手紙を出していた。

 手紙を書いた時はこんな状態ではなかった。マジで手伝ってくれないかな。手紙の代筆とか、代筆とか……。


「アンナが大丈夫そうなら、アンナにも声をかけてもらっていい?」


「はい、既に他の者が声をかけに向かいました」


「ありがとう」


 オルグレン伯爵家も少数精鋭って感じで、皆仕事が早い。今までと同じなので凄く快適。

 少数精鋭だった為に、俺のせいで人手不足が深刻なんですけどね!

 ルヒトじいやリーリアも一緒に応接室へ向かうと、私も挨拶がしたいとフィリが合流した。


「師匠! 久し振り。もうすぐアンナも来ると思うから」

 うっかりアンナの師匠をそのまま師匠呼び。


「ライハルト様の師匠になった覚えはありませんが……?」


「えーと、シャイナ、久し振り」


「はい。お久し振りです」


 師匠は笑顔だが相変わらずかたい。リーリアがお茶の準備をしてくれている間に、アンナとケビンが合流。

 アンナは使い古したバケツ持参で、半ば顔をバケツに突っ込んでいた。ケビンの雑さが気になる。


 フィリも師匠も、ルヒトじいさえ固まっている。いくら来客がアンナの師匠だからって、これは無いよね。

 リーリアは我関せず。流石。


「……ケビン、様……?」


 師匠の雰囲気が怖くなった。手で師匠にどーぞと示したら、ケビンへのお説教が始まった。

 フィリがアンナの背中をさすり、リーリアが楽に横になれるようソファを整えた。


「失礼しました」


「いいよ。流石にどうなのって私も思ったし」


 挨拶もせずにお説教から始めたシャイナが、ちょっとバツが悪そうにしている。俺が促したからいいのに。

 周囲の冷たい視線にも気が付いたケビンは、項垂れている。細かい事は気にしない性格は俺にとって好ましいけれど、時と場合を選ばないとね。


 その後は落ち着いてお互いの近況報告をして、和やかな雰囲気になった。

 さり気なく聞いたが、シャイナはやはり一人暮らしする気満々のよう。


「だったらシャイナ、しばらく手伝ってけ。ライハルト様が給料も出す」


 ルヒトじいも俺と同じ考えだった。心配しているのもあると思う。シャイナは普通に驚いていた。


「私が、ですか……?」


 シャイナはあくまで母上の補佐。俺の手伝いなんて無理って思ってそう。

 即否定では無かったので、チャンスがあるかもと直ぐに乗っかってみた。


「毎日色々な所から手紙が届いて、返事を書くだけでも大変なんだよ……」


 内政外交部門からだけでなく、調査部門や商人からも来る。それから各種招待状がたんまり。今はそれに出産祝いのお礼状も重なっている。

 とにかく作業が多くて手紙を代筆だけでも大変になっていると、シャイナに一生懸命説明した。


「急いではいないので、落ち着くくらいまでなら……」


「よっしゃあ!」


 思わずガッツポーズしたね。リーリアに至ってはササッと契約書まで持ってきて、更にシャイナを驚かせた。

 サクッと契約後は場が和やかになった。明日から少し楽になる!


「実は、ライハルト様に紹介したい方がいるのですが」

「そうなの?」

 シャイナがこういうのって珍しい気がする。


「どんな奴だ?」

 早速ルヒトじい。


「ライハルト様の祖父母の筆頭侍女に頼まれていまして。私も先日会ったばかりですが、有能なのは間違いありません。ただ少々事情がありまして、後ろ盾を欲しがっています」


「ふぅん。珍しいね?」

 本当にシャイナがこういう事を言うなんて、珍しいと思う。


「託されていはいたものの、私だけの手には負えないと判断しました。本人たちも無理にとは思っていません」


 シャイナが複雑な顔をしている。女性の複雑な表情って何を考えているのかよくわからないので、ルヒトじいを見てみた。ルヒトじいもお手上げ?


「会ってから決めてもいい?」

「勿論です」

 シャイナで無理ってなんだろう。後日会うことになった。


 俺の判断だけでは不安なので、前回のメンバーを全員揃えてみた。アンナは無理しないでと言ったのだが、多分無理矢理来た。

 ケビンが持っているバケツが新しいのに変わっているけれど、そこじゃないんだよなぁ。シャイナの目が厳しいです。


 シャイナに続いて入って来たのは女性と男性。多分三十代後半くらいの二人。どっかで見たことがあるような顔。

 だけど誰だかさっぱり思い出せず、ついフィリを見るとフィリも誰だかわからない様子。誰だっけとつい首を傾げる。


「やだ、二人で動きがシンクロしてて可愛い」


 女性が隣の男性に囁いたけれど、聞こえています。ちょっと恥ずかしい。フィリを見たらフィリもこちらを見て恥ずかしそうにしている。


「またシンクロしてる。何これ可愛い」


 二人で真っ赤になっている所で、シャイナが部屋にいる人をくるりと見渡している。その視線を追うとルヒトじいが固まっている。


「ニーナ、とギルバート殿下……」


 ルヒトじいが呟いた。うん? 誰それ。殿下?


「機密事項になりますが、ライハルト様の叔母と叔父です」


 師匠が平然と言う。えーと、叔母と叔父って事は父上の妹と弟で。弟と妹は三人いたけれど、そのうち二人は病死したはずじゃあ……。


「えー! 機密事項過ぎる!」


 俺の人生はまだまだ波乱が続くようです。



*** これにて完結となります! 

 長い間お付き合い頂き、ありがとうございます。沢山の応援をありがとうございました。 ***

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転生?先がダメ王子 【長編版】 相澤 @aizawa9

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