惹かれ合うふたり
「……おとうとおかあはどんな最期を迎えられた? 」
洞窟を後にし、森を抜け、果てしない草原に出るとニタは足を止めました。
『寄り添いながら静かに息を引き取られた。しかし、聞くなら何を話したかではないのか? 』
キツネはハッとしました。
ずっと無表情だったニタが笑っているのです。
「おとうは少しせっかちで、おばあみたいに静かに諭すのがおかあだった。きっと変わらないふたりをアナタは見たと思う」
ニタはふたりが大好きでした。
おじいとおばあも大好きでした。
少し喧嘩をしたり、仲良くしている姿が瞳に焼き付いているほどに。
「アナタが、大好きなふたりを知っているというだけでニタは嬉しい。初めて見た時から不思議だったんだ。 アナタはケモノらしくない瞳をしていた。話している時も人間みたいだった」
『それを言うならアナタも人間らしくなかった。まるで本能のままのケモノのような物言いをしていたぞ。……だが、父上の話を聞いてそうではないと気がついた。アナタは───どちらでもない、若しくはどちらでもある。……人間にもケモノにも囚われない自我を持つ存在だと気がつかされたよ』
ニタは首を傾げます。さもよくわからないとでもいうように。
「ニタはただ、生きとし生けるものは同等であるべきだと思う。決めるけるやつが好きになれないだけだ」
『だが、嫌いとは言わない』
「好きにはたくさんのよい意味がある。たまにケイハクだけれども。嫌いは……否定をたくさん呼ぶ。悪いことは返ってくる。返ってくるなら良い方がいいじゃないか」
ニタはゴダに言った言葉を思い出していました。
あの時、すごく苦しかったのです。
同じ年頃なら友だちのひとりふたりいてもおかしくないでしょう。
ニタなりの精一杯で彼を突き放したのです。
あとにもさきにも、あの時以上の拒絶的な言葉はニタの口からはでませんでした。
『……ニタ、王に聞きたいことがあったんじゃないのか? 』
「ぜんぶ、ぜんぶ話してくれたようなものだった。だから、言葉を変えてまで聞くことは無い。おとうとおかあはフコウにはならなかった、それだけリカイ出来ればいい」
王はもう幾許もない命でした。
ニタは王を安心させてあげたかったのです。
静かに眠らせてあげたい、そう思ったのです。
命あるうちにニタに伝えられた王は安らかに眠れるでしょう。
「アナタはこれからなにをするの? 何がしたいの? 」
ニタの瞳はキツネをまっすぐに見据えます。
『オレは───人間になりたい。人間をケモノにすることが出来るなら、ケモノを人間にする方法もあるはずだ』
キツネもニタをまっすぐに見据えます。
『アナタとおなじ目線で、アナタの隣で、どちらの立場にもなれる存在になりたい』
「……ニタはアナタの特別になりたい。コイとかアイとかはわからない。でも、おじいとおばあ、おとうとおかあみたいになりたい。……アナタは次の王だ。オキサキにしてくれる? 」
キツネは目を丸くしました。
ニタは知っている数少ない言葉で話をしていました。
思っても見なかった言葉、しかし、初めてあった時から瞳を反らさずまっすぐ見つめてくる少女に惹かれずにはいられませんでした。
『オレが……オレが人間になったとき、その願いは自ずと叶うだろう───』
何年先か、はたまた何十年先かわからない約束を。
けれどふたりは待つのではなく、寄り添い、探しに行くのです。
争いなどなくなるはずはないけれど、おじいとおばあと王の望んだ共存を形にするため前に進むのでした───。
Fin
Fate chronicle 姫宮未調 @idumi34
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