変わりしもの
───そこは森の奥深く、大きな大きな洞窟の中でした。
『……ついに来たか』
仄暗い洞窟の中、王座と言うには質素な、藁で敷き詰められた一段高い場所でとても大きなキツネが横たわっていました。
♪。.:*・゜♪。.:*・゜
「……」
『周りは気にするな。オレが居る限り襲っては来ない』
深い深い森の中、ケモノたちの小さな唸り声が四方八方から聞こえていました。
見渡せば、光る双眸がそこかしこから覗いているのです。
人間はこんな凶暴なケモノたちを相手に契約していたのだと薄ら寒くなりました。
♪。.:*・゜♪。.:*・゜
『ようこそ。運命の子ニタよ』
よろよろと、立ち上がろうとします。
『父上! 無理はなさらないでください! 』
キツネが駆け寄ります。
『……大丈夫だ。情けない姿を見せてすまない。そして両親に会わせられなくてすまない───』
微かな威厳は残るものの、気迫はありません。
『君の両親には色々と世話になった。荒くれものだったワタシの考え方を変えてくれた。感謝しても足りないし、もう恩返しも出来ない。……彼らは亡くなったのだ。短命であるケモノになったことで』
ニタはおじいとおばあが贄になれない話を聞いたときから薄々覚悟をしていました。
もっと早く来れたなら、などと言う軽薄な考えは浮かびませんでした。
王から両親への敬愛が伝わってきたからです。
それよりも、自分を連れてきたキツネが代役で来た理由の方に驚いていました。
そして、王は長くないと察して口にはしませんでした。
♪。.:*・゜♪。.:*・゜
ダダとユダは他の贄たちとは違い、ケモノになってもお互いを尊重しあっていました。
王は最初は何も言わず、ただふたりを眺めていたのです。
ふたりはケモノにも優しく接していました。
次第に今までの自分が恥ずかしくなり、仲睦まじいふたりに夫婦のあり方を教わったのだと言います。
人間とケモノは違うイキモノです。
番を乱暴に扱い、死なせても摂理と思っていました。
王は死なせてしまった番へ悔やみの気持ちが芽生え、あり方を変えたと話します。
『ワタシが死ねば契約などないものとなり、言葉が話せなかった頃に戻るやもしれん。共存を望んだ人間とケモノは年老い、死に行き、争いを好むものたちばかりとなろう。……それも
ニタを求めた理由は彼女を新たな番にすること。しかしそれは体裁だったと語ります。
人間ともケモノとも違う空気を纏った小さな小さな少女に魅了され、欲しくなったのだと。
『今はもうそれは望まん。息子はキミの両親に育てられたようなものだ。……生きているうちに直接会って言いたかったことがある』
───どうか息子と共に新しい共存のあり方を探し、変えてはくれまいか。
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