王の元へ
「……本当に行くのですか? ニタ」
「うん。おじいとおばあを残していきたくはないけど」
代わりに自分たちが贄になるというふたりの願いは一蹴されました。
『アナタたちでは贄になれない』
歳を取り過ぎているからと。
人間は長命であり、ケモノは短命。
人間としてならまだ長く生きられても儀式を行えばその場で死ぬリスクがあります。
それに、儀式は人間とケモノの代表が立ち会わなければなりません。
ニタは贄になれても儀式に立ち会える立場にはありませんでした。
だから人間のまま王に会いに行くのです。
「大丈夫だ。どちらにしろ王にはいづれ会わなければならないと思っていた」
ニタは何も考えていないわけではありませんでした。
これからも相反する考えを持つ人間とケモノの間で、今回のような争いは少なからずあるでしょう。
ニタは知りたいことがありました。
憶測することも出来ないことです。
両親の後、儀式が途絶えたのは確かで、その理由は王に聞くよりありません。
不安視や楽観視して憶測することは無意味に思えました。
『応えられはするが、王から直接聞いた方がよいだろう。ひとつ言えることは───オレが代役で今ここにいる理由にも関わりがある』
言葉を紡いでは選ぶ様はまるで……。
♪。.:*・゜♪。.:*・゜
次の日ニタはキツネに伴われ、おじいとおばあに別れを告げました。胸に願いを秘めて──。
『贄は言わば花嫁。ケモノが繁殖するためには
「人間もお嫁さんは必要だ。レンアイには必要ないが、コドモがいなければ絶える。ケモノの肉は高タンパクでエイヨウには最適と聞いた。───ニタは食べていないからエイヨウが足りてないらしい」
お互い生きるためにただ殺し合い、奪い合えば絶えるだけです。
共存し、お互いでお互いの需要と供給を補うため契約を交わしたのです。
安定し始めた今、そのような理由が双方にあったことなど露知らず、対等であることを不満に思うものが出ました。
「言葉が通じなければ、お互いの憶測で勝手をする。言葉が通じても会話をしようともしない」
『生きとし生けるものは皆、業に塗れているものだ』
「そうではないものは少ない。悲しいな───」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます