第28話 一方その頃。

 なんか目を醒ましたら良く分からないところでふん縛られてたんだけど?

 

「……」


 え。

 どういう事だ、これ。

 今まで酔っ払って記憶がない事は、残念ながら良くあったけれども、目が醒めたら縛られていたという経験は初めてだ。

 なにこれ、ついにやっちまったか。

 犯罪行為。

 いやでも、記憶がなくなるほどはっちゃけた自分だとしても、そんな事をやるとは流石に思えないぞ?


 俺は周囲を(縛られているのでぐるりとはいかない、首だけを動かして)見渡す。

 どうやらここは監禁を目的とする簡素で強固な牢屋――という訳ではなく、むしろその逆で豪華絢爛な一室だった。

 柔らかそうな絨毯、如何にも高そうなシャンデリア、窓ガラスはピカピカで綺麗に磨かれている。

 そんな場所に縛られて放置されているというのは意味が分からない。

 仮定の話をしよう。

 例えば俺が意識を飛ばす前、ふざけて高貴な人物が住んでいる屋敷に忍び込んだとする。

 そしてそのまま不法侵入者として捕まったとしよう。

 ……その場合、このような部屋に閉じ込めておくなんて事はするだろうか?

 普通それこそ牢屋にぶち込むか、あるいは普通に駐在などの警備組織にぶん投げておくだろう。

 そう思うからこそ、この状況には首を傾げる他ない。


「あら、やっと目が醒めたみたいね」


 と、そこで。

 

 がちゃりと扉が開かれ、そこから質素ながらも上等な布を使っているという事が分かるワンピースドレスに身を包んだ少女が姿を現す。

 その少女はこの国の王妃、ソフィア様にとても良く似ていた。

 というか似ているはずだ。

 何故なら彼女はソフィア王妃の娘、フィリア様その人だったのだから。

 ニコニコ顔の彼女、何故か背筋が冷たくなる。


「えっと」

「ようやく会えたわね、と言えば良いのかしら」

「……」

「文字通りの意味でよ、クロード。貴方と私とでは天と地ほどの差があって、それを埋めるのに相当の努力が必要だったのだから」


 まったく、難儀よね。

 彼女は呟く。


「……! フィリア王女、それは」

「一応、私も理解しているつもりよ。この世界の事を、少しはね。ソフィア――つまりは私のお母様ね。まったく……頭がおかしくなりそうだわ」

「貴方は――」


 俺は恐る恐る尋ねる。


「貴方は、どういう立ち位置の人間なのですか?」

「新世界の人間」


 彼女は簡潔に答える。


「少なくとも、そう答えるしかないわね。この世界が文字通りの意味で生まれ直した時、その時になってようやく生命として生まれ落ちた存在」

「いや、でも……俺は貴方と」


 会った記憶がある。

 そう答えようとして、言葉に詰まる。

 よくよく考え話を思い出してみると、この世界は文字通りの意味でこの世界の創造者にして主人公であるミナミが現れた瞬間から発生している。

 その前に会った事はあくまで設定としてでしか存在していなかった、らしい。

 だとしたら、彼女と出会ったという思い出も、それはすべてミナミが設定として作ったものだ。

 ……文字通り、彼女もまたミナミの創造物でしかないのだ。


 それが今、俺の前に存在している。

 それは一体、どういう事だろう。


「ま、それは良いのよ」


 しかし彼女はその事を「どうでも良い」とばっさり切り捨てた、ように見えた。


「貴方をこうして手中に収めた今、私の目的の八割は終えたと言っても過言ではないのだから」

「目的、って」

「嫌がらせよ、ただの」


 冗談を言うような口調で彼女は言う。

 実際、冗談のようにその言葉からは彼女の真意が伝わってこない。

 彼女が一体何を考えているのか、それを知る為に言葉を紡ごうとしたが、しかしその前に彼女は「ま、という訳で」と踵を返す。


「少なくとも今のところ、貴方は私にとっても大切な人。だからしばらくはそうしていてね」


 そう一方的に言い放ち、そして彼女は部屋から出て行ってしまった。

 

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聖騎士の癖にうっかり酒に呑まれて聖女様に手をだしてしまった場合 カラスバ @nodoguro

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