#65(最終話) 兄妹以上、恋人未満





 ブランコに座って地面を見つめながら今日何度目かの溜息を吐くと、視界に人影が現れた。


「アミさん、そろそろ帰ろう。お昼ご飯にお蕎麦茹でたから3人で食べよう」


 顔を上げると、ソウジくんが優しい笑顔で右手を差し出していた。



 私はソウジくんの右手を見つめながら呟いた。


『ママを死に追いやったの、私なの。 私がママを殺したの。 酒浸りにさせてアルコール依存症にして、病院に連れて行かずにお酒買うお金ずっと渡し続けたの。死んでほしくてお金渡してたの』

『私は、パパやママよりももっと酷い人間なの。 親を殺した・・・人の道を踏み外した私は、もう幸せになる資格なんてないの』


 私の呟きを聞いたソウジくんは、私の目の前で地面にヒザを付いてしゃがんで、私のヒザに右手を置いた。


「アミさん。 アミさんの行いは、許されないことかもしれない。 でも僕は、アミさんのしたことに感謝します。 アミさんが僕と母の無念を晴らしてくれたんです。 僕や母にとってアミさんは恩人なんです」


「心の底から、アミさんに感謝します」



『別にソウジくんの為にしたんじゃないよ・・・ママのこと憎くて・・・私を産んだママが憎くて・・・』


「それでもです。 僕にとってアミさんが恩人なのは替わりません」


「アミさんはずっとそうでした。 僕はアミさんに沢山助けて貰いました」


「おにぎりやサンドウィッチを差し入れてくれたり、クッキーやドーナツ作ってくれたり、一人暮らし始めた時は自分のアルバイト代で必要な物いっぱい買ってくれましたよね。 覚えていますか?あの時、いつかこのお礼を返すって約束したの。 まだ返せてないんですよ?」


「なのに遠くに行ってしまうし、更に返せ無いくらいのもっと大きな恩を作ってしまうし」


「今度は僕の番なんです。 アミさんに沢山のお礼を返したいんです。 僕にその機会を下さい」


『・・・ダメだよ』



「アミさん、この際だから言わせてもらいます。 アミさんは勘違いしています。 アミさんは自分が産れたから僕が不幸になったって思い込んでますけど、僕は不幸なんかじゃありません。 母と二人での生活は、貧しかったけど寂しくは無かった。 母が亡くなった後もアミさんとエミさんと出会えて、決して寂しくは無かったです。  僕のこと、勝手に不幸だって決めつけないで下さい。 むしろ、アミさんが居ない今の生活のが寂しいです」


「だから、これからは僕の傍に居て下さい」



『・・・』


 もう無理だ

 どれだけ言い訳考えても、ソウジくんの傍に居たい自分の気持ちをこれ以上否定することが出来そうにない・・・


『・・・ホントにいいのかな? 私、ソウジくんと一緒に居たら、きっと幸せに感じちゃうよ?』


「当たり前です。良いに決まってます。 アミさんにはいっぱい幸せになってもらいます。 僕とエミさんの二人で、全力でアミさんのこと幸せにします。 鼻血出るくらい幸せにします」


『エミみたいに、ソウジくんのことお兄ちゃんって呼べないよ?』


「呼び方に拘りはありませんので、気にしません」





『・・・わかった・・・これからは、ソウジくんの傍に居ます』


 私はそう答えて、ヒザに乗るソウジくんの右手に、戸惑いながら自分の手を重ねた。


 ソウジくんはいつもの優しい笑顔で「ありがとう」と言って、私の手を握り立ち上がった。

















 ソウジくんと一緒に暮らすことを決めたあと、私は職場に退職願を出し、丁度一か月後に地元に戻ることにした。


 ママの実家の祖父と祖母にそのことを報告しに行くと

「寂しくなるけど、その方がいいよ。 幸せになるんだよ」と言ってくれた。



 地元に戻ってからは、ソウジくんのアパートでは狭いので、少し広めのアパートに引っ越しした。


 その分家賃が大変なので、私は直ぐに職探しを始め、事務の仕事に就くことが出来た。


 私は仕事をしながら、家事も頑張った。

 ソウジくんは大学に通いながらアルバイトもして、家のことも手伝ってくれた。


 毎週、週末になると、エミが泊まりに来た。

 エミはウチに来ると私にべったりで、お風呂も一緒に入りたがるし、寝るのも一緒の布団で寝たがった。




 私とソウジくんの関係は、今のところ”兄妹以上、恋人未満”だと私は思ってる。

 二人でお出かけする時は必ず手を繋ぐし、家でもよく膝枕してあげて耳掃除をしたりもする。 一度だけ、キスもした。


 中学高校の頃と違って今ではお互い遠慮が無くなり、ズケズケと本音を言い合えるようになって、たまに口喧嘩もする。 

 そしてクチで勝てない私が言い負かされて泣いて(フリ)、彼が謝る、というのが最近のパターンだ。 

 ソウジくんは相変わらず涙に弱い。ふふふ。


 因みに、”お兄ちゃん”とは一度も呼んだことない。


 この先、私達がどうなっていくのかは今は分からないけど、私はこれでも十分幸せ。







 お盆休みに、初めてソウジくんのお母さんの地元に連れて行ってもらった。

 私とエミとソウジくんの3人で、お母さんのお墓詣りに。


 ソウジくんはお母さんの墓前で

「母さん、妹を連れて来たよ。 僕の大切な二人の妹なんだ。 この二人が居たから母さんとの約束を果たせたんだよ」と私達のことをお母さんに紹介してくれた。


 私は心の中で

『初めまして、アミと申します。 私の両親が申し訳ありませんでした。 それと、ソウジくんと巡り会わせて下さって、ありがとうございました』と謝罪と感謝の気持ちを伝えた。

 




 先ほどまで五月蠅いくらい聞こえていた蝉の鳴き声がいつの間にか止んでいて、少しばかり風が吹き始めていた。



『ソウジくん、久しぶりに歌聴かせてよ。 ココでソウジくんの歌が聴きたい』


「う~ん、分かりました」


 ソウジくんは、私とエミの手をそれぞれ握って、目を閉じて静かに歌いだした。





 縦の糸はアナタ


 横の糸はワタシ


 織りなす布は、いつか誰かの傷を庇うかもしれない


 縦の糸はアナタ


 横の糸はワタシ


 会うべき人に出会えることを、人は幸せと呼びます

















 お終い。






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恋してはいけない人に恋した。 バネ屋 @baneya0513

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