#64 揺さぶられる思い
玄関を開けるとキャリーバック1つ持ったエミが立っていた。
「お姉ちゃん!会いたかった!」
そう言って抱き着いてくる。
最後に会ったのがママの葬儀の日だったから、当時は中3。
あれから2年半近く経ってて、高2のエミは随分と大人びて綺麗になっていた。
身長は伸びて髪も伸びて、顔も少しシャープになって化粧してるし、体形も女性的になってる。
頻繁にスマホで写真を送ってくれてはいたけど、直接会って見るとその成長ぶりに感慨深いものがある。
そんなエミを押し戻し
『エミまで来てどうするの! 二人とも何考えてるのよ! もう向こうには帰らないって言ってるでしょ!』
「まぁまぁ、お姉ちゃん、とりあえず落ち着こ? 上がらせて貰うね?」
そう言って、エミは私の横をスルリと抜けて、部屋に勝手に入ってしまった。
「ぷぷぷ、お兄ちゃんそのエプロン全然似合ってないよ!」
「これは、エプロン付けないと服濡れてしまうので。 それに着替え持ってこなかったので、仕方ないのです」
「え?着替え持ってきてないの?」
「はい。 衝動的に来てしまったので」
「もう、言ってくれればお兄ちゃんの着替えも持ってきたのに」
「だって、エミさんも来るなんて言ってなかったじゃないですか」
「じゃぁお姉ちゃんの借りれば?」
玄関で一人溜息を吐いて、不機嫌オーラ全開で二人が居る部屋に戻ると、そんな私を他所に二人は随分と仲の良い兄妹トークで盛り上がっていた。
なんだか、納得いかない。
親の業やシガラミ、道ならぬ恋に私が一人悩み苦しんでいる間に、二人はすっかり兄妹として仲良くなってて、自分でこの状況を望んだというのに、二人を見ていると悔しいとか羨ましいとか、そういう出てきてほしくない感情が湧いてくる。
『で、エミは何しに来たの? 旅費だってバカにならないでしょ? お金どうしたのよ?』
「お姉ちゃんに会いに来たんだよ! お金は、パパから毎月生活費キッチリ絞り取ってるから大丈夫」
『はぁ、来ちゃったものは仕方無いけど、明日には帰るのよ。 月曜から学校あるでしょ? ソウジくんも明日エミと一緒に帰って。大学にちゃんと行かないとダメだよ?』
「アミさんからまだ良い返事が貰えてないので、僕は帰りませんよ」
『もうソレ聞き飽きた・・・いい加減許してよ・・・』
「お姉ちゃん、ママはもう居ないんだからココに居たってしょうがないでしょ? ママの事、一人で抱える必要なんてないんだよ? 私だってママの娘だったんだし、私も一緒に背負うよ?」
『エミは自分の幸せだけ考えればいいの』
「やだ。お姉ちゃんも一緒じゃないと、やだ」
この二人と話していると、頭痛くなってきた。
「アミさん、僕がどうしてこれだけしつこくアミさんと一緒に暮らすことに固執してるか分かりますか?」
『いえ、そんな話、聞きたくない』
聞いたらダメな話だ
聞いたが最後、嬉しくなってソウジくんの所に尻尾振って飛び込んでしまうヤツだ
私は立ち上がって玄関へ行き、サンダル履いて一人で外に出た。
歩いて近所の公園へ行った。
ブランコに座り、ぼーっと考え事を始める。
二人とも昔と違って私の心に土足で遠慮なく踏み込んで来るようになってる。
私はそれにイラつきを覚え、そして嬉しいとも感じている。
二人を捨てた私を、二人とも今でも慕ってくれて、しつこく一緒に住もうと言ってくれる。
嬉しくない訳ない。嬉しいに決まってる。
困ったなぁ
二人と一緒に帰りたい気持ちが出てきちゃってる。
私がソウジくんの傍に行ったら、きっと幸せになっちゃうよ?
そんなの許されるわけないよね?
それに私、妹になりきって、エミみたいには振舞えないよ?
どう足掻いても、ソウジくんを好きな一人の女なんだよ?
私の心は
これまで自分に言い聞かせ続けていた、ママの罪を背負う自分は幸せになってはいけないという気持ちと、一人で2年過ごして来て独りぼっちの寂しさに心が擦り切れ始めてて、昔みたいにまた二人と一緒に居たいっていう素直な気持ちと、ソウジくんの傍で女としてではなく、エミみたいに妹として振舞い続ける自信がない不安とで、揺れていた。
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