#63 強がりの限界
食事の後、私がお風呂に入っている間にソウジくんが食器の洗い物を済ませてくれ、お風呂上りにアイスコーヒーを煎れてくれた。
ソウジくんは、私の部屋を完全に自分の家かの様に振舞っている。
「アミさん、僕が髪を乾かしましょう。ドライヤー貸して下さい」
『いや、いいですから。自分でやりますから』
「まぁまぁ、そう言わずに」
そう言って強引にドライヤーを奪い取られ、私の意思など完全に無視して私の頭に風を当て始めた。
髪の束を解す様に手櫛を通しながら、風を当てて行く。
手慣れている・・・
どう見ても、初めてじゃない
さては、普段からエミにしてあげてるね?
逆か、エミが
『ありがとうございました。 慣れてますね。エミにしてあげてるんですか?』
「はい、よくエミさんに甘えられてやってあげてますので」
『やっぱり』
アイスコーヒーを一口飲んで、何となくテレビを点ける。
チャンネルを色々変えてみるけど、特に面白そうな番組が無く、電源を切る。
うー・・・
なんか気まずい・・・
ホントは、話したいこと、聞きたいこと、いっぱいあるけど、それ聞いちゃったら、まるでソウジくんのことを受け入れるみたいに思わせそうで、私からは話しかけ辛い・・・・
だから、会いたくなかったのに
私が黙って考え事をしていると、ソウジくんはあの優しい笑顔で独り言の様に呟いた。
「やっぱり、アミさんの傍が一番落ち着きます。 何年も会わなかったのに、そんなの関係無く落ち着くことができます」
『・・・そうですか。 私は全然落ち着きません』
「中学3年の頃、毎週の様にこうやって二人で過ごしてましたね。 あの頃は毎週毎週来なくていいのにって思ってたのに、いつの間にか僕の方も楽しみになってたんですよね。アミさんが訪ねてくるの」
『そうなんだ・・・知らなかった』
「ええ、だって今思い出して今更気付いたんですから。自分でも当時は自覚無かったと思います」
『懐かしいな・・・あの頃は本当に楽しかったなぁ』
キラキラした恋心で毎日が楽しかったあの頃と比べ、今の自分は余りにも変わり過ぎてしまった。
パパとママを恨み、そしてママを死に追いやり、一人でひっそりと工場で油まみれになって働く毎日。
恋なんて当の昔に諦めた。
ダメだ
涙が出てくる
こんな顔見られたくない
『ちょっとお手洗い』
顔を背けて立ち上がろうとすると、腕を掴まれて、体ごと引き寄せ抱きしめられた。
「我慢せずに泣いて下さい。 昔もこうやって何度も慰めたじゃないですか。 遠慮しなくていいですよ」
もう限界
これ以上強がれるほど、私は強くないよ
『うううう・・・』
ソウジくんは私を抱きしめ、黙って背中をポンポンと優しく叩いてくれた。
しばらくソウジくんの腕の中で泣き続けた。
結局、私は一人では生きて行くの、無理なんだろうか。
昔を思い出したくらいですぐ泣けてきちゃう。
散々強がって、ママの罪を背負って一人で生きてくって言いながら、あの頃に戻りたいって思ってしまう。
ソウジくんやエミの手を掴もうとしてしまう。
この日はこれ以上話し合いをせずに、雑談だけして寝た。
翌日は休日だったけど、朝早くからソウジくんが朝食の用意をしてくれて二人で食事をした。
食事の後は、ソウジくんは勝手に洗濯物も始めた。
「アミさんは毎日仕事で疲れてるんだから、今日はゆっくり休んでて下さい。 家事は全部僕がやりますので」
『はい・・・』
洗濯物カゴには私の下着とかも入っていたけど、洗濯物を一緒に洗うくらい昔も散々やっていたので、開き直ってやりたいようにやって貰うことにした。
実際のところ、就職してからは休みの日は一日中ゴロゴロ過ごしてて、食事も掃除や洗濯もいい加減になっていたので、助かるっていう気持ちもあった。
ソウジくんは洗濯物が終わるとキッチンの大掃除を始めたので、私はソウジくんを放置して、久しぶりに読書を始めた。
1時間くらい読書に集中していると、ソウジくんが冷たいお茶を用意して、私の前に置いてくれた。
『ありがとう。頂きます』
私がそう言うと、ソウジくんはニコリとして、キッチンの掃除に戻って行った。
その背中を見ながらグラスに口を付けると、インターホンが鳴った。
読んでいた文芸書に栞を挟みテーブルに置いてから立ち上がり、受話器を取って応答すると
「お姉ちゃん、久しぶり! 私も来ちゃった!」
エミだった。
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