#62 新妻感




 翌朝、目が覚めると、食欲をそそる味噌汁の美味しそうな匂いがしていた。



「おはようございます、アミさん。 先に目が覚めたので、朝ごはん作ってました。 仕事行く前に食べて行って下さい」


『・・・・』


「アミさん? 起きてますか? 顔でも洗ってきたらどうです? 寝癖酷くて可愛い顔が台無しですよ?」


 この人、本当にソウジくんなの?


『私の知ってるソウジくんは、そんなこと言わなかった』


「そうですか? 多分、遠慮するの止めたからじゃないですか? いつまでも妹に遠慮してるの、兄妹としておかしいですからね」



 もう色々と諦めて、顔を洗って仕事に行く準備を始めた。


 仕事着に着替えて化粧してから、ソウジくんが作ってくれた朝食を食べた。


『ソウジくんの手料理、初めて食べた』


「昔は全然料理出来なかったですからね。 これでも最近は頑張ってるんですよ? 味はどうです?」


『普通に美味しいです・・・っていうか! なんで当たり前の顔して朝食作ってるんです!? まだ居座るつもりですか???』


「え~っと、ご機嫌取るため? あとは、一緒に暮らす為のアピール? それと、まだ帰るつもりはありませんよ?」


『はぁ・・・なんか昔と立場逆転してますね・・・』


「なるほど。確かにそうですね。 あの頃のアミさんの心境が、今になって分かってきました。 相手に拒絶されるのって中々キツイですね・・・高1の頃、冷たくしてすみませんでした」


『もう分からなくていいです・・・』


「それより、時間大丈夫ですか?仕事行かなくては?」


『あ!?もう! 兎に角、ウチに居てもいいですけど、大人しく留守番しててくださいね!』


「はい、わかりました。 お仕事頑張ってきて下さい」



 朝から調子狂いっぱなしだ。







 この日のお昼休憩の時間に、エミに電話を掛けた。


『もしもし、エミ? ちょっと聞きたいことがあるんだけど』


「急に電話掛けてきて、どうしたの?お姉ちゃん」


『どうしたの?じゃないよ。エミ、ソウジくんに住所とか教えたでしょ』


「え?ダメだった?」


『ちょっとなんてことしてくれるのよ! ソウジくん、私の部屋に居座って、今も部屋に居るんだけど!』


「いいじゃん、久しぶりに二人っきりになれたんだから、いっぱい甘えたら?」


『もう!エミまで何言ってるのよ! もう会わないって言ったでしょ!』


「まだそんなこと言ってるの? お姉ちゃん、相変わらずメンドクサイ・・・」


『ん~~~もう!』


「まぁまぁ、お兄ちゃんだってお姉ちゃんと会う為に、今まですっごく頑張って来たんだから、話しくらい聞いてあげてよ。 これからのことだって、お互い納得出来るまで話し合うのも悪くないでしょ?」


『う~ん、エミの言うことも分かるけど・・・』


「あ、私、授業始まっちゃうから切るね? それじゃーね!」



 っていうか、エミ、今「お兄ちゃん」って言ってた?

 メッセージとかだと未だに「ソウジ先輩」って呼んでたのに、普段はお兄ちゃんって呼んでるのか。






 仕事が終わり家に帰ると、お肉を焼く美味しそうな匂いが外までしていた。


 玄関開けて部屋に入ると、私のエプロンを身につけたソウジくんが、キッチンで料理してた。


「お帰りなさい、アミさん。 お仕事お疲れ様でした。ハンバーグ作ったんで、手洗いうがいしたら一緒に食べましょう」



 朝もそうだったけど、今のソウジくん、新妻感出てて違和感が凄い。

 エプロン全然似合わないし。



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